「ぼくと魔女式アポカリプス3 Nightmare Crimson Form」
「でも、でもね、草太くん?私はやっぱり、もう死んでる人間だから。こんな姿に変わりながらでいいから生き延びたい、というのは不自然で――醜悪なことだと、思うんです。私一人なら、それもよかったのかもしれない。でも草太くんは、普通の人間で、生きてます。まだ、本当に、生きてます。だから――昼間の世界に、戻って欲しい。お願いだから」
「ねぇ草太くん。草太くんは人間ですけど、ひょっとしたら、代替魔術師と同じなのかもしれません。今まで、人外の場所にいて。死んだようになってて。でも、私のいのちで、草太くんは生き返るんです。そう考えたら……同じ、でしょう?」
「無駄にしちゃ、駄目ですよ」
あらすじ
滅びた魔術種たち。種の復活を賭けて行われる、人間を代役とした争い。死者を代替魔術師として蘇らせ、互いの"根源闇滓"をかけて殺しあう。"闇滓"無くしては、彼らは己の存在すら維持できないのだ。
強敵<ドゥオーフ>の代替魔術師・蘭乱爛崎寝々は倒された。だが、戦闘後で消耗し切っている澪と冥子を尻目に何者かが蘭乱爛の死体をその"根源闇滓"ごと持ち去ろうとする。また新たな代替魔術師の参戦か?だが澪はその人物の姿に見覚えがあって―
アブない中華双子
前巻の蘭乱爛崎寝々も自己の正義感のみに従って悪人は一切の例外無くミンチにするなど相当にイっちゃったチャイナ娘さんでしたが、3巻では更にその上をいくチャイナ娘さん(しかも双子)が登場します。勤務場所が同じ繋がりとはいえ、作者に何かこだわりでもあるのか。「くすくす。復讐? 似てるけどダウト!」
「くすくす。復讐? そんな崇高な概念には到達しない。我らのスタンスを示す言葉を、師に教えられた法律を、黒き社会の戦人として叩き込まれた絶対の戒めを、貴方にも教えましょう。それはつまり、この単純な一文!」
『同胞に仇なすは人にあらぬ猪(ブタ)、誅すべからず――屠殺せよ!』
「足が凄いの。何本あるか数える?」
「脳が半分しかないわ。どうなっているのかしら」
「この横隔膜と肋骨の間の感触が良かったのよ」
「意外に肉が多いわね。皮を剥ぐのが面倒そうだけど」
復讐、あるいはそれに準じる物ならまだ良い気もするのだが、この二人の場合目的の為の手段ではなく手段が目的―要するに解体フェチってのがヤバ過ぎます。その対象は見慣れぬ生物、代替魔術師、人間ですらも。
お互いの唇を吸い始めた。
ちゅるちゅると。じゅるじゅると。美味しそうに、嬉しそうに、同じ顔の間で唾液が交換される。
口と舌と喉と胃で水分が補給される。
二人はぴっちりと身体を接触させていた。腰も胸も太股も、自分ではない自分をぎゅうと自分に押し付けていた。
加えて、喉が渇いたってだけでお互いの唾液を啜り合う変態+ガチレズっぷり。いやぁ…。台詞も妙にテンポがよいしノリノリですがそれは どうなのだろうか。ねぇ。ともあれインパクトは凄まじい、終盤まで双子の存在感で持っていかれた感が。
終わりきった物語
前巻でエルフのレンテンシアさん(故人)から"4つ目の選択肢"の伝承を受け継いだ澪くんですが、結局それも終わりの形の一つでしかないわけで万事解決とは言い難い。- 戦闘に勝利し続ける⇒魔術種に乗っ取られて終了
- 戦闘に敗北する⇒その時点で終了
- 戦闘に参加しない⇒導き手に見限られて死体に戻る=終了
- 導き手を破壊⇒顕化したままの姿で元に戻れない、顕化の反動は残る("自分"としては死亡?)
…4はそれでも幾分マシな方。が、それでも顕化したままで生き続けていくことに耐えられないならそれも終了と同義。今回の新たな代替魔術師・小鳩先生の決断は甘々で綺麗ごとだ。自己犠牲なんて大概は自己満足に過ぎない。でも選択肢がその4つだけならロジックとしてそれを選んだのは理解できるし、最後に先生として、一人の女性として命を次に繋げられたのはどう足掻いても終わりきったこの物語の中で数少ない救いとして貴重に感じた。
ちょっとした救い、きっかけ、いいお話は時々あったとしても現段階ではハッピーエンドの欠片が微塵も見えないハードなお話。4つ目の選択のお話もヒロインの砧川は顕化の反動で5感を消耗しつつあったりするのに、澪くんの場合は(性別変わったり見た目変わったりするけど)現状特に無し、等々安直な結末は迎えられない黒い要素が多々感じられます。…だがそれがいい。どう足掻いても救われない切なさ、絶望感、それはそれで物語として主題に成り得る重要な要素。ハッピーエンドなど要らない。ただ納得のいく形で終わってくれれば、それでいい。
って、本当に終わったー!?(別シリーズ書いてから続きor打ち切り どっちかは不明)
■感想リンク■
ぼくと魔女式アポカリプス 3 (3) 水瀬 葉月 メディアワークス 2007-06 |