「くろかの」

「闇暗、俺に何か隠してないか?」
「べ、別に何も隠してませんよ……?」
「なんでそんなに余裕が無いんだ。不必要なまでに『フフフ……』っていつも余裕の笑いをしてるのに」
「『フフフ』」
「いや無理に笑わなくていい、よけいに怪しい」
「それから、なんで高校生女子が部屋の中にベビー服なんか常備してんだ」
「細かい点は気にしないでください……」
「細かくないと思うが。まるで、俺が赤ちゃんになることを予測していたかのようじゃないか?おまえ、何かたくらんでないか?」
「フフフ……まさか」
「そこで『フフフ』は出てほしくなかったなぁ」


あらすじ

科学至上主義の阿寒望は先輩の命令で、同じクラスの文武両道の美少女・闇暗魔夜を科学部に勧誘することになった。
闇暗を狙う他の部のスカウト達が次々と撃沈していく中、阿寒は自らの科学的思考を頼りに「まずは二人だけで話すことが必要」という結論を出す。だが、クールながらも人気のある彼女、学校の中ではなかなか二人きりになる機会は見つけられない。阿寒は下校時に彼女の跡をつけ、二人きりで話せるタイミングを探していたのだが…気付けば辺りは人気の無い山の中。そして、彼女に話を切り出すには成功したものの、そこに突然宇宙人が現れて、阿寒は赤ん坊の姿にされてしまう。元に戻る方法がわかるまで、阿寒は一部始終を見ていた闇暗の世話になることにしたのだが―


なぜか、超展開連発でも話が成り立つ、ふしぎ!

ベテラン夏緑先生の新作。黒い衣装で黒魔術を使う彼女だから「くろかの」。この人の作品を読むのは初めてだったり。
会話文とか部分部分を抜き出してみると、面白い所があるのだけど、お話全体としてみると意外に平凡な感じ。
会話文のノリの良さもさることながら、その中で豊富に語られる科学的薀蓄が他に類をみない特徴としてとっても印象に残る。女子のおっぱいやら体操服の素晴らしさを数学的表現を利用して語るところとか、超ひも理論から運命の赤い糸に強引にもってく所とかワロタ。他に科学関連の真面目な書籍を書いてた経験が無駄に生きてるなぁと。基本コメディながら時々容赦ないというか皮肉気味な内容にも取れる展開のある会話もなかなか心憎く、その辺りは「流石ですね。」と。
ただ、阿寒と闇暗の二人のお話としてみると、色々突飛な事態になっていると見せかけて実際のお話には起伏が少ないかなぁとも思った。最初っから最後(の直前)までスタンスは変わらず、ストレート過ぎないかね?愛川さんとか科学部の先輩をもっと絡めて一波乱あっても良かったんではないか。
この際、性格の方が黒くても俺は一向に構わないのだが?
4894256894くろかの (HJ文庫 な 1-2-1)
夏緑 さいとうつかさ
ホビージャパン 2008-04-01