「七夕ペンタゴンは恋にむかない」

「私ね……みんなの優しさが灯すあたたかさで、まるで低音やけどみたいにゆっくり自分の心が傷ついていくのに気付いたの。みんなの優しさに近づくのが……怖くなったの」
「そんな……」
「私のこと、嫌いになった?」
「き、嫌いになんか……なるわけないじゃないか」
「いいの?嫌いにならなくて。今の私はね、壊したいんだよ。湊が大切にしてるもの。湊が信じているもの。湊を、守っているもの全部」
「あ、あかり!」
「全部壊してから、湊を奪って、さらっていきたいの」


あらすじ

「7年に一度の”晴れ七夕”の日に、神様と交わした約束を守れば願い事が叶う」
そんなおとぎ話のような伝承が残る星無町で、同じ7月7日に生まれ、共に育ち、15歳の誕生日の七夕の日に神様の前で永遠の友情を誓った、湊、橙、伊緒、あかり、鈴。 だが5人の"特別な関係"は、中学3年の夏、あかりの突然の転校によって崩れてしまう。この出来事をきっかけに残された4人は以前よりは距離を置いて付き合うようになってしまう。そして、それから2年後の初夏、とある事情で伊緒を探していた湊は学内のプールで見知った姿を見つけてしまう。それは2年前に転校していったはずの、あかりに間違いなくて―


荒い所もあるけど面白かった!

Re:ALIVEとか書いてる壱月龍一さんの新作。1巻完結ですが。
表紙やら、題名に惹かれて衝動買いしつつも読む機会を掴めずに積み本行きに。しかし丁度今夜が七夕ということもあっていい機会と手を出した次第。オチの付け方とか、荒い所は多少あれども、変化してゆく幼馴染同士の関係という一番大事な所はしっかり書いてあって堪能できた。…ベタはベタなんだけど、自分はこういうお話好きなんだ!と再確認したね。
人数が減って昔より疎遠になりつつあった5人の"特別な関係"を、あかりの復帰をきっかけにして湊が元に戻そうと努力するけど、それぞれ思う所があって捻れていく人間関係がメイン。男女が複数人の友人関係は恋愛感情関係無しに成立し得るのか?というお話かもしれないけど。単なる恋愛物でもなしに、友情物でもなしに、その二つの間にある葛藤とか悩みにきゅんきゅんした。そしてきっと読んだ人誰もが感じたと思うのだが、主人公である湊が他の人間より明らかに精神年齢が低く感じられたり、その行動の思慮の無さは正直痛い。けど、これは高校生だったら辛うじてアリのレベルではないかなぁ。寧ろ他の人物が大人過ぎたり(橙)、何かしら事情があって素直に動けない状況が対照的に湊の幼さを強調してたように思えた。まぁ今の自分からすると湊のとった行動は愚の骨頂にしか見えないのだけど…でも気持ちは痛い程理解できる辺りが、また、ね。居心地のいい場所がエイエンに残ればいいとは何度も思ったさ。
そして、荒いところ…というか残念な点をいくつか。まず、5人の物語のはずなのに扱いが不遇な人がいた所。鈴さんですね。誰ともくっつかなかったり、場を展開させるための狂言回しの役になっていたりして、他の4人が密接に絡み合ってただけに鈴さんのストーリー上の置いていかれっぷりは悲しい。結構エキセントリックな設定だったり百合ん百合んだったりはするのだけど、まぁオタですからあざといとは思いつつも結構好きなキャラではあっただけに。そして伊緒ちゃんの描写が前半少なかったかなぁというのがもう一つ。オチやエピローグ周りとか終盤はこれでもか!というぐらいプッシュされるのに、前半〜中盤でのいい所が少ないため唐突な印象があったと思う。1冊で完結だから分量的には仕方ない気もするんですけどねぇ…
色々思いつく問題はある。でも最後まで読んで素直に面白いと思ったのも事実で…幼馴染同士の恋愛とかそういった物に惹かれる人なら存分に楽しめるのではなかろうか。
…そうそう、幼馴染で妹属性でかつ○○っていう伊緒ちゃんの終盤の破壊力の高さは異常。激しくネタバレなので書けないのが口惜しい。
4094511369七夕ペンタゴンは恋にむかない (ガガガ文庫 い 1-3)
轟 そら
小学館 2009-05-20