「クジラのソラ 03」

「冬湖。わたしはね。冬湖と一緒に戦ってきて、幸せだったよ」
「え、えと?」
「ねえ、聴いて。わたしは、あなたと約束したよ。一緒に戦うって、そう誓い合ったよ」
「―― 一緒に……戦う?」
「あなたはいった。わたしの力が欲しいって。わたしに背中を預けるって。わたしと一緒なら、どこまででも強くなれるって」
「ごめんなさい。わたし……何も覚えてない。」
「ひょっとしたら、その方が幸せなのかもしれない。今の冬湖は幸福で、私の知っている冬湖はいろいろなものに押しつぶされようとしていたのかもしれない」
「だけど、私は冬湖と約束した。あなたを守るって」

このシーンは良かったけどね


あらすじ

地球を征服した異星人によってもたらされた、一チーム三人のプレイヤーで256隻の艦隊を操り戦う『ゲーム』。その世界大会で優勝したプレイヤーは栄光をもって異星人の艦隊に迎えられる。
兄を追い、世界大会を勝ち進む桟敷原雫とそのチーム『ジュライ』。準決勝の対戦相手である『アギーラ』は当初の予想では楽勝だと思われていた。しかしこの段階にきて『アギーラ』の試合内容が変貌を遂げた。冬湖は『アギーラ』のプレイヤーがかつて最強を誇ったプレイヤー…枕井夫妻、冬湖の両親だと断言する。かつて世界大会で優勝したはずの彼らが何故敵のチームに在籍しているのか?そして『ジュライ』は彼らに打ち勝つことができるのか?一方、冬湖の体には『くじら憑き』の兆候が現れ始めていて―


もっと落ち着け

熱血SFスポ根もの。
という触れ込みであったはずなのだが、ここにきて(2巻の最後辺りから?)『ゲーム』単体から背後の異星人やら地球崩壊の危機にまでお話のスケールが広がってきた。個人的には1巻の頃の地に足の着いた雰囲気の方が好きだが、個人の趣向は置いておいてお話のスケールを大きくすること自体は悪くない。ただ優勝して終わり、よりは黒幕の陰謀や世界の命運等々関わってきた方が展開に幅ができるし盛り上がりもするだろう。
だが、「この3巻は面白かったのか?」と問われると「いまいち」と答えます。特にここで道を誤った!という点は無いのだけど。強いて言うなら風呂敷を広げ過ぎたのが問題か。広げ過ぎて収束がつかない、ではなく広げ過ぎてお話の印象が希薄になっている感じ。まず、この作品は1巻から割りと視点が頻繁に変わるのだけど、登場キャラと舞台の大型化による視点の移動が頻繁過ぎて本線が見えにくくなってるのが一つ目の理由。次に登場人物の動機…というか想いがよくわからないのが二つ目の理由。話の展開が早過ぎるのか、他の登場人物にもページを割きたいのかわからないけど、場面場面の対応だけで心情をしっかり描けている箇所が少ないと感じた。例えば雫は兄に会うのが第一目的(だったはず)。だけど道中は冬湖冬湖と…そりゃ考えは途中で変わるだろう、けど突然言動が変わってるから違和感バリバリ。まぁ、そんな理由で壮大で緊迫感のあるストーリーが展開されてても「そうなのかー」程度くらいにしか思えなかった。大きな舞台に負けないようにしっかり主人公周りに重点を置いて描写して欲しかった所。
会話部分の文章に問題があって誰の発言かわからない状況が多々あったりと1巻には明らかな問題点があったが、それでも個人的には1巻の内容が好きでした。文章上の問題点は進むにつれて改善していってるだけに非常に惜しい。もっと落ち着いて巻数をかけて書いてれば良かった気もしなくもなく…どうあれ次の4巻が最終巻だそうですが。ここまで読んでしまったし、お話の落ち所については気になるので次も買ってみようとは思う所存。

■感想リンク■

4829119306クジラのソラ 3 (3)
瀬尾 つかさ
富士見書房 2007-05