「雅先生の地球侵略日誌」

「私が指揮を執りますので、皆さんはつべこべ言わずだまって私の指示に従って馬車馬の如く働きやがってくださいませ。私が死ねと言いましたら満面の笑み浮かべて光栄に思いながら死にやがれ」
「いや、だからさぁ……」
ウェァ!」

「では、今から私の発案した作戦内容を説明致します。お聞きくださいませ」
言外に「そこの馬鹿みたいになりたくなければ大人しく言うこと聞け」と言っている私の言葉と、ダメ押しにテーブルに置かれた白刃をチラつかせると、三幹部は機械仕掛けの人形のように首を縦に振った。
後日、博士が言うには「あの時のワルザードさんの目は、大鉈でも振り回して『おもちかえりぃ〜』とか『嘘だ!』とか言い出しそうな、狂気を孕んだ危ない目をしていましたよ」という。うん、説明されても私にはまったく理解不能だわ。


あらすじ

圧倒的な戦力で地球侵略に来た銀河の覇者クァークゴ帝国。
彼我の技術力を考慮すると早期に決着が着くと思われたこの侵略、だがクァークゴ帝国は連戦連敗を喫していた。アースファイブというカラフルな5人組の戦士によって作戦が逐一妨害されてきたためだ。連敗数は実に248。有能だが不甲斐ない他の幹部の理解できない考え方と、さっぱり進まない侵略行為に首席補佐官のワルザードはストレスで胃を痛める毎日。挙句の果てには美人保健医(敵の副指令)の元に通いだす始末。
そしてある日の(やる気の無い)反省会でついに彼女はブチ切れる。もう他の奴らには任せておけない。彼女の指揮の下に今までにない規模で準備される怪人達。果たして今度こそクァークゴ帝国はアースファイブに打ち勝つことができるのだろうか―


真面目なお姉さんは好きですか?

ファミ通文庫の第9回えんため大賞東放学園特別賞受賞作品。新人さん?
日記ではなく日誌。戦隊物のお約束に対して常識人のワルザードさんが的確なツッコミを入れまくる作品。だが悲しいかな

「セオリーというか伝統というか、そういうのに合わせてみて!」

とかいう上司の一言でスルーされ(プチ切れ)る毎日。不憫すぎるw
あと設定が設定だったり登場人物にオタが多いせいかその方面のパロネタ多し。ダイナマンからMUSASHI、挙句の果てには銀英伝から吉野家コピペまで。その辺は好みによりけりだと思うが、自分は面白かった。8割強は把握したと思うが、ダークナイトの次のシル○は何だかわからん…。
あと、パロネタのコメディ物としてはストーリーも良かったのが好印象。ストーリー的にはワルザード渾身の250戦目前後のお話だけしか描かれていないので、雰囲気と言った方が適切かも?ワルザード…もとい雅先生が可愛いのですよ。いや普段は理不尽なお約束に脳内暴言吐いたり馬鹿上司に鉄拳制裁加えてますが!そんな生真面目な雅先生が、同僚の美人保健医におでこをくっつけられたり、手を握られたり、「大切な人」発言で脳内オーバーヒート気味になってる様は可愛すぎる。真面目なだけに内心「ぇぇぇぇぇ」と思いつつもドキドキしてる所が素晴らしいw この作品に百合要素があるとは思わなかったので不意打ちですがこれはいい百合。
で、百合は大事な要素なんですがそれ以外の所も良かったよ、と。雅先生の家族へのお手紙、雅先生の心中を反映し地球侵略作戦の状況に合わせて手紙の内容もてんぱっていく所がなかなか。行き着く所までいった後、これに百合要素も影響しお話は手紙にて締めくくられます。何てことのない内容なのだけど、「よかったね」と言いたくなるというかなんというか。結局、このお話は最初から最後まで『雅先生の地球侵略日誌』そのものだったのだなぁと。


総じて、メタ戦隊物のパロ・馬鹿小説。だがお話も(特に終盤)なかなか良く、予想以上に面白かった。個人的には★4でもいいのだけど、パロネタはネタ元わからないと微妙ですよなぁ…。これも人は結構選ぶかもしれない。

475773980X雅先生の地球侵略日誌 (ファミ通文庫 な 5-1-1)
直月 秋政 昼間行燈
エンターブレイン 2008-01-30