「ベン・トー サバの味噌煮290円」

「誤差4分か。なるほど。……他の連中もやる気だな。最初のざわめきとは違う、この覚悟を決めた気配のざわめき。悪くねぇ。思わず武者震いしちまうぜ」
「あぁ、オレたちの狩り場で好き勝手やられるわけにはいかない」
「ワン公は弁当の近くにいろ。そして時がきたら迷わず半額弁当を手に入れろ」
「それが……今日のオレたちの勝利だ」


意味がわからなかった。だが白粉は手を前で組んでお祈りする少女のように、恍惚の表情で
「……かぁこいい……」と呟いた。
『筋肉刑事6』に顎鬚と坊主の出演が決定した。


あらすじ

高校生・佐藤洋はふらりと入ったスーパーで、半額になった弁当を見つける。それに手を伸ばした瞬間、彼は嵐のような「何か」に巻き込まれ、気付いたら床に倒れていた。そこは半額弁当をめぐり「狼」達が熾烈な争いを繰り広げる戦場だったのだ。何が起ったのかもわからない佐藤は次の日も諦めずに参戦、だが『氷結の魔女』こと槍水仙に完膚なきまでに叩きのめされる。それでも、その不可思議な戦いに魅せられ参戦を続ける佐藤。そんな彼を見込んでか槍水仙は佐藤を『HP同好会』へと勧誘するのだが―


予想以上に良質コメディ

『黄色い花の紅』や『バニラ A sweet partner』のアサウラ氏最新作。
過去2作のテーマ「銃と少女」が今作に至って「半額弁当と少年」に。…なんといいますか、字面だけ見ても落差が凄いんですが今までどシリアスだったのに作者本当にこれで大丈夫?と考えていた時期が俺にもありました…
大丈夫でした。←結論。と、いうか面白い部類ですわ、コレ。作者コメディーも全然いけるじゃーん。
まず、お話は大きく二つの場面に分けられます。現在進行形の弁当争奪戦パートと佐藤洋の回想パートに。
主人公の家族や旧友の話が出てくる回想パートの方はネタ100%で素直に馬鹿で笑えること請け合い。鎌を持って襲ってくる血みどろの校長先生の話とか吹いたw…今までのお話ではこれだけ分かり易く笑える場面は無かったのでこれだけでも新境地とも言えるのかもしれませんが。
だが、特筆すべきは、弁当争奪戦パートの方かな。良く言えば濃密な、悪く言えばくどい、過剰にも思える修飾描写。前作までにも度々見うけられ銃の薀蓄と合わせ「良くも悪くもこれが作者の味かなー」と思っていたのですが、よりによってこれが健在。しかもネタとの親和性が高いのが困るwww 半額弁当の争奪戦というある意味低俗なお題目が、なんか特定方向にブーストし過ぎな作者の技によって強敵と書いて「とも」と呼ばせるような熱いバトル物に!『大猪』の圧倒的な力に無念を憶えるシーンとか『魔導師』の導きで弁当初獲得のシーンとか熱すぎですよう……かぁこいい……。冷静に考えてみると果てしなくシュールなのもコメディの面目約如か。そして白粉花、彼女の存在がまたいい具合のアクセントに。腐女子でBL愛好家で(元)ライトノベル研究会所属といったまた無駄に意欲的なキャラ設定。黒の中の白、白の中の黒とでもいいますか(一応)シリアスな展開の中で、練習後の剣道部をもってして「凄く甘い香り…」と評す彼女の腐的ツッコミの不意打ちっぷりが素晴らしい。
徹底して馬鹿なコメディでありつつ、燃えるバトル要素をも含むという稀有な作品。どっちの要素も十分に満足できるレベル。なんだかんだ言って作者の作品は結構好きだったので期待はしていたが、蓋を開けてみたら期待以上で嬉しく思う。純粋にエンタメとして面白かったですよ。一風変わった作品が好きな人、燃える作品が好きな人、笑える作品が好きな人、とマニアックなネタの割りに幅広くお勧めできるのではないだろうか。
まぁ、あれだ。
このお話はライトノベルですね?『筋肉刑事』はライトノベルですよね?これは次巻以降、掲載されるって期待しちゃっていいんですよね?
と、いうことで一つお願いしたいw
4086304058ベン・トー―サバの味噌煮290円 (集英社スーパーダッシュ文庫 あ 9-3)
アサウラ
集英社 2008-02