「アリフレロ-キス・神話・Good by」

「心の汚れた俺のこと、許してくれ、小桜……」
「三井川、なぜ? なぜ、バイトしてる姿を見られると、興奮するの?」」
「な……どこで気づいた? やめろ、やめてくれ、病原菌を見るような目で見るな!」
「ウソだね。余計に嬉しいくせに、そうでしょ?」
「ち、違うよ、そうだよ、悪いかよ、違うよ、断じてそんなじゃないよ」
「…………少なくとも五人くらいかな。元カノにも、こうして、俺のこと見させたんだ」
「キモチ……よかったの?」
「あぁ、マジメに答えると、そうとしかいいようがないな」
「なに笑ってんの……」
いいぞ、一歩どころか五十歩も百歩も退いたその、瞳……三井川は喉の奥で笑う。
「そうだ、俺をその目で見てくれ、くくく」
「変な人……」
「小桜だって、少しは、なんかほら、そういうつもりでさぁ、ついて来たんじゃないの?」
「同類みたいに扱わないでくれる?」
「な、なにその冷たい眼差し――」
「嬉しいくせに……」
「嬉しいんだけど……なんでそんなにじっと見つめてくれるの?」
「あ、ごめん。いつ死ぬのかな、って思ってさ」
「言い過ぎだろ、ほっとけ、いやほっとかないでください――ってか死なないよ、誰も」
「死んじゃうよ、次に入ってくるお客さん」


ライトノベル三大奇書にも選ばれた『ロクメンダイス、』の中村九郎の新刊。一応、『神話の遺産』という超常の物品とそれを扱う『ビップ』達を軸にしたバトル物。「左腕に神話が降ってくる」と嘯く少女小桜冬羽、被見趣味の少年三井川正人、元ビップの足利寿、神話の汚点を削除する者黒向日葵を中心に物語は進んで行くような気もします
関係ないけど『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』は個人的に奇書でもなんでもないと思うんだ。


異次元の文章センスが炸裂してます。唐突な表現、唐突な展開のオンパレード。ちょっと素では描けないような文章が目白押し。それでいて最後のページまでお話を紡げている。正に今ライトノベルというジャンルでしか読めないような作品。それも唯一無二。どうでもいいバカ方向に突っ走るコメディ要素と小粋な台詞が心憎いシリアス要素がバランスよく配合されてる点も魅力。小桜のマイペースっぷりが素敵過ぎ。展開が急過ぎて一瞬前後不覚に陥るものの『ロクメンダイス、』の「何か盛り上がってるけど言動が二転三転してどうなってるかよくわからない」的雰囲気は薄れお話全体の流れ自体は割とわかりやすくなっていると思います。決着も唐突とはいえそこがまた「らしい」。ある意味叙情的で悪くないと思った。ただ、部分部分で面白い所や印象深い表現はあったものの、お話し全体として見て面白いかと言われると微妙な感が。今回もやっぱり『異端』。でもそれがこの作者の持ち味なんでしょうね。


4086303507アリフレロ―キス・神話・Good by
中村 九郎
集英社 2007-03