「ゴッデス! 1. 女神さまって大変なの♪」

アキラは桜羅子の背中から抱きついて、両手を胸の上に回して、抱きしめた。桜羅子の体は柔らかくて、あったかい。長い髪の毛は、いい匂いがした。
「……アキラちゃん?」
「オレがここで信用できるのは、さーちゃんだけだ。さーちゃんは信じられるから。だから……一緒で良かったな、って思ってサ」
「うん――アキラちゃん」
桜羅子はうなずいた。笑って、自分に回されたアキラの交差した腕を胸で抱きしめて、アキラの両手の上に自分の両手を重ねた。
「わたしも。アキラちゃんと一緒だから。だから何があってもアキラちゃんと一緒なら大丈夫かもしれない、耐えられるかもしれないって思うんだ。わたしたちは離れないようにしようね、アキラちゃん――」


最近だと『アーサー王宮廷物語』等を手がけられたファンタジー作家ひかわ玲子の最新作。デビューやら代表作が富士見ファンタジア刊なのでHJは意外と言えば意外。アーサー王が児童文学系(筑摩書房)だったのでそれと比べると不思議でもないか。
内容は異世界物。やや百合風味。幼い頃からのライバルとの果し合いに出向く主人公達二人が突然周囲の人を巻き込んで異世界に送還。突然襲いかかってきた人を殺したら(!)その人は実は神様(の一人)で責任を取って後を継ぐことに。神同士が力を奪い殺しあうその世界で、元の世界に帰る術を探して…ってお話です。


まず、ヴィダール神(CV:子安武人)が頭に浮かんだのは人としてどうなのか。
それはさておき、微妙な作品。大筋である異世界に飛ばされて帰る方法を探すとか、戦いに巻き込まれる等は使い古されたプロットであり、主人公が美少女2人で百合要素というのを考慮しても特に目新しさは無い。加えて主要人物の性格描写が弱いこともあり、今ひとつ盛り上がりにかけるような。特に主人公のアキラが猪突猛進でボーイッシュな娘なのに、事あるごとに周りの意見に素直に賛同してついていってる辺りに違和感が。ただ、特有の設定として"神"の定義は面白いと思う。「神を殺すと相手の力を取り込める」「基本は神殺しだが、それ以外にも様々な方法がある」「取り込まれてもその神が消滅するとは限らない」…って基本なんでもありなんで今の所は「そうなのかー」ってな具合ですが。主要人物が既に何らかの"神"を取り込んでしまっているので「取り込まれてもその神が消滅するとは限らない」がミソですかね。登場人物の中に絽貴(ロキ)って人がいたり、ベースが北欧神話らしいので"神"の力を取り込むための裏切りと謀略の展開に絡んできたら…面白いかもしれない。雰囲気的にならない気もするけど、1巻の最後で予想を裏切られたので(まだこの展開は無いだろう的)どうなることやら。
最後に文章について。あとがきを見ると実感できると思うが、妙に軽い。本文はあとがきほど修飾されてない気もするんだけどそれでもなんだか軽くて少し引いた。自分はもう少し固い文体を想定してたってのもあるのだろうけど。まぁ、これは文章が致命的に下手とかそういう類ではなくて単純に好みの問題かと思われます。
色々言ってますが、最初から最後まで一気に読めたし、特にお話が破綻してるとかそういうのではないので気になるなら良いのではないかと。2巻以降の展開によっては化ける可能性も…。1巻だけだとまぁ「普通」。

あと、目次の第4章の脇にある小さい押絵の全体版は本誌限定?


■感想リンク■

4894255383ゴッデス! 1.女神さまって大変なの♪
ひかわ 玲子 近衛 乙嗣
ホビージャパン 2007-03-30