「楽園ヴァイオリン クラシックノート」

「盟さん」
「ご用心。そうやって侮っていると、今に足元をすくわれちゃうから」
「――誰に?」
「この塾に」


白い花の舞い散る時間』等の友桐夏の最新作。今回もリリカル・ミステリー。『特別』な才能を持った人だけが入ることのできる『特別』な塾。天才ヴァイオリン奏者である少女・盟は、音楽枠で塾を受験し合格枠二つの難関を見事合格する。入学した塾では裏口入学した生徒がいるとの噂が流れていた。盟は、一緒に音楽枠で受験した少女・巴を受験時の演奏の様子から疑うが――


事前情報が何も無かったので一見新シリーズと思いつつも今まで同様リリカル・ミステリー。塾シリーズ。一見普通の少女小説ですが、何気ない会話の裏側に潜む緊張感溢れる駆け引きにより2転3転する人間関係、各作品毎に完結しつつ微妙にリンクして補完しあう構成が魅力。油断してると足元をすくわれちゃうよ?横、縦の人間関係に重きを置く立派なミステリー。何故にコバルトから出ているのかもミステリー。今回もsinyaやら投石やら『蝶』やら『カガミ』やら不穏なキーワードが続々と。加えて各章の名前が前作『盤上の四重奏』と同じなのも興味深い所。
読んでみて思ったこと。今回も荒筋が全然重要じゃないなぁとか、今回あまりドロドロしてないなぁとか色々ありますが、一番大事なのは「未完?」と感じたこと。この作者の作品は続きが出そうなのに完結している作品が多いので微妙ですが、今まで以上に物語の途中で終わっている感が。前例が無いだけに次は続編なのかどうなのかそれがミステリー。
お話の本筋自体は全くいままでと関連はないので、この作品からでも入れることは入れるのですが、キーワードを見つけて深読みしたり、結末に真の意味での衝撃を受けるには過去作品から入った方がお勧め。アクが強くないので逆に入門にはいいのかもしれないけど、単体の完成度で見ると前作の方が上かなぁと。
白い花の舞い散る時間盤上の四重奏楽園ヴァイオリン 春待ちの姫君たちはお好みで


■感想リンク■

4086010208楽園ヴァイオリン―クラシックノート
友桐 夏
集英社 2007-04