「8ガールズ オデッセイ」

《……そう簡単に割り切らないでほしい。女は天然の人工子宮ではないでしょうに。好きな男の赤子を産むのは女として至上の幸福でしょうが、嫌いな男の赤子を産む道具にさせられるのは耐えられぬでしょうに。私にはわかる。あなたを産んだ私にはわかるのです……》


あらすじ

土星基地への物資輸送任務を遂行中の外惑星間航行汎用輸送船<シャドーレス・シャングリラ>。
人工冬眠から目覚めたクルーたちは驚愕した。女性のみ、総員8名のはずの船内に、9人目の小さな男の子が存在していたからだ。船内のコンピュータにも記録は残っておらず正体不明。果たして彼の正体は、そしてその目的は―


雰囲気はいいのだけど…

ミステリ要素のあるSF。
個人的にこの手のジャンルが好物なだけに気になって手にとってみた。直球ド真ん中のSFって(最近は)意外に少ないし。
宇宙船という密室状況の中での緊迫感、宇宙空間の描写といった雰囲気的な所はまずまず。基本的に宇宙船内に引き篭りっきりなのが残念な所。普段あんな話を書いてるだけにスペオペとかの方が親和性あるのではないかとも思うが。ミステリ部分の要である複線も思い出してみると過去のお話の関係ないような所から張っていたりと思いの他頑張っている(ちと強引かもだが)。消化の方も概ね問題無いが…1点、『シャドー・スパイダー』という単語が序盤の預かり知らぬ所出てきてスルーされてるのが気になった。演出?
残念な所は人間関係の描写の薄さ。1冊しかないお話なのにメイン登場人物が8人と多いのが問題。ご丁寧に一人一人過去の話を追っているので更にページ消費が増大。結果として、その人物の背景はわかっても現在の行動や心理まで描写が回らずキャラが薄く感じた。密室状況でのサスペンスを描く上で人間関係(の描写)が薄いのは致命的だと思うよ?「私はなんにも船長」と言って終盤までほぼ出番が無かった船長が一番キャラ立ちしてる所からも推して知るべし。彼女はキーパーソンなので比べるのは酷な気もするが、それでも8人は多い。5人くらいでもよかったんじゃぁ。
あと、結末がすっきりしないのが"個人的には"気に食わない。内容は詳しくは書きませんが台詞から想像してください。「本人同意の上」ということだけど、それでも貢物として――ってのは嫌悪感が。そこで主人公連中が流されるままってのもまたすっきりしない原因の一因。お話は一転くらいはしてるけど、その中で彼女達は何をしたのか。
結論。SF好きならまぁ…ってことで。テーマは「女は強し?」そもそも1冊で収めるのは難しそうなテーマですねぇ…。
47973416888ガールズ オデッセイ [GA文庫]
吉田 親司 うき
ソフトバンククリエイティブ 2007-06-14