「ゆうなぎ」

「君は、有意味な他者の期待に応えたいという欲求を、一般的になんて言うか知ってるかな?」
「ええと……打算?」
「ハズレ。……それはだね、大切な人を喜ばせたいという気持ち……つまり『愛情』と呼ばれているんだ」


「愛に生きるお人形さんたち。……浪漫だろう?」


あらすじ

仕事帰りにふらりと寄って、いつもの肴でちょいと一杯。「夕凪」はそんな常連客で賑わう、王都十八番街の居酒屋だ。
今日も今日とて店は繁盛。怠け癖のついた老店主を尻目に従業員のマイカと給仕のサヨリは忙しい毎日を送っていた。


夕化粧
居酒屋の仕事が一息ついたある晩、マイカは庭に咲く梅の香りに昔の記憶を誘われる。
―まだ「夕凪」の店員になる前の話。父親に反発して家を出たマイカは暴漢に襲われた所をアオイという女店主に助けられ、彼女の家にやっかいになる。しかしアオイには何やら事情がある様子で―
ほうこぐさ
サヨリは生まれてから今まで王都の外に出たことが無い。そんな彼女が「夕凪」の下宿人である錬金術師見習い・コウの仕事のお手伝いとして北の地方に共に向かうことになった。だが、現地につくとコウは少年・ジンタにサヨリへの村の案内をお願いし自分は一人で調査にいってしまう。初めはぎこちないものの、次第に仲良くなっていくサヨリとジンタ。だが、ふとした誤解が二人の関係に亀裂を生じさせ―


この人物紹介はないだろうorz

この作品、以前に富士見ファンタジア文庫から出ていた『夕なぎの街』シリーズの完全な続編だったりします。絵師も同じで。短編二つで独立しているので特に読むのに支障は無い気もするものの、肝心な部分が書かれていないあの人物紹介はないだろう…ということで補足。

  • コウ:前作主人公。サヨリの製作者。なんで絵が変わったのん?
  • サヨリ:コウ製作の自動人形。感情を持ったのは割りと最近。
  • シーラ:感情を持った最初の自動人形(らしい)。錬金術や医学に通ずる。サヨリに自分の核の一部を提供。
  • イカ:実は王都の財務卿の娘。取り替えっ子症候群で寿命が長い。

…読んでりゃわかりますけどね。でも、自動人形のことくらい書いて欲しいところ。


以前より落ち着いた印象

やたら丁寧に描かれる魚料理の描写や、全体に漂うまったりとした雰囲気等は前作からそのまま継承された感じ。まぁ料理の描写が多いからってそれが面白さに直結するわけではないのだけど、それを含めての「味」だしね。その辺、辺に変わらずにいてくれたのは正直嬉しかったかも。ただ、富士見ファンタジアでやってた頃と比べるとファンタジーっぽい要素やアクションシーンは減少傾向。全体的に「落ち着いた」感がでてきた。これがいいか悪いかは個人の好みによりけりだと思うが、私は今回のお話の主題とはあってていいんじゃないかなーと思う。
あと、改めて既刊を眺めてみると、今回の展開を踏まえた展開が既刊にもあってニンマリさせられたり。

「……あたしが知っている月の話とは違う」
「どんな話かな?」
「妊婦が月の光を浴びすぎると、出来損ないの子供が産まれるって話」

十八番街の迷い猫より
これを前提にして、こっちの展開を決めたって感じなんでしょうけどねー。こういうのは好きよ?

4894256525ゆうなぎ (HJ文庫 わ 1-2-1) (HJ文庫 わ 1-2-1)
渡辺 まさき 山田 秀樹
ホビージャパン 2007-12-28