「ラノベ部」

「……こういう小説は、あなたのような人のために書かれている」
「読んだことのないものを偏見から判断することなく、ジャンルや定義や権威に囚われることなく、『漫画みたい』『アニメみたい』という形容をネガティブなものとして捉えることなく、こういう小説のことをただこういう小説であると受け入れることができる新しい感性を持った少年少女のために、『こういう小説』は書かれている」
「……はあ」
「……私はあなたに、こういう本を読んでほしいと思う。こういう本に、あなたのような人と出逢ってほしいと思う。それは多分、本と読者の双方にとって幸せなことだから」


あらすじ

物部文香は入学したばかりの高校一年生。背は低めで顔つきも幼いため、たまに小学生に間違えられる。
文香の通う高校は部活動に力を入れていて、生徒は必ず何かしらの部活に所属しなければいけないことになっていた。しんさんきぼうの末に楽そうな文芸部に入部希望を出した文香。だが、この高校にそもそも文芸部なぞ存在してはいなかった。改めて部室練を見渡すと『軽小説部』という室名札。そもそも自分が以前見たものも「文芸」ではなく「小説」ではなかったか…?と部室の前で熟考していると横からいきなり女生徒の声が

「あなた、タイが曲がっていてよ」


ラノベ読みの為のラノベ

けっこう面白かった
高校生になって初めてラノベ(っつーかサブカルチャー一般)に触れた女の子と、ラノベ部の人々の日常を描くオタメタネタの連作短編集。ネタ中心で、日常の会話メインで進行となると『生徒会』シリーズがあるけど、そこまではっちゃけてはいないかな。タイトルが『ラノベ部』ということもありライトノベルの話題中心でメタ小説としては意外と大人しかった印象。
時折壷に嵌ってくすっとくる箇所はあったのだけど、全体を通して爆笑したとか、感動したとか、超展開に度肝を抜かれた…等々は無かったのだな、これが。ネタに走った場面も悪くはないのだけど、自分の場合、全くのラノベ初心者が遭遇する(ありがちな)悲喜こもごもの出来事の方がポイント高く感じた。
まずは初めてのラノベ。今の中高生は初でも抵抗無く買うだろうし、ネット書店も一般的になってるからそれ以外の世代でも敷居は低くなってる。が、遥か昔に「スレイヤーズ」やらリアルタイムで追いかけていたけど、しばらく断絶して数年後にまた何かのきっかけで復活した層も少なからず存在するはずなのですよ(自分含む)。そういえば、最初は『漫画みたい』『アニメみたい』といったネガティブな感情や「これって世間一般的にどうなのよ」みたいに考えてたことも、あったよなぁ…としみじみと感じつつ、引用の部分とか良いこと書いてるなぁと。慣れたら慣れたで同ジャンル内でも色眼鏡がかかってくるものだし「こういう小説のことをただこういう小説であると受け入れる」っていうのは初心として大事だと今更ながらに痛感。
あとは「面白いラノベを教えてもらう」という行為の捉え方の描写かな。面白くない本を好き好んで探す人もいないだろうし(…いたりする?)、読むなら面白い本のがいいに決まっているのだが「人に積極的に本を薦められたら負けかなと思っている」という気持ちは大変によくわかるw 個人的に最大公約数的な情報や噂は、判断の材料として参考にするのには抵抗があまり無いけど、積極的に(直接)人に薦められるのは逆にすんなりとは同意しかねる…かも。ラノベの内容が多岐に渡るのと同様に、個人の嗜好にも色々あるのだから実際に結構ある状況だと思うのだけど、改めて書かれると色々と思うところが…。


ぱっと見ネタ部分が目立つけど、実際に読み進めてみるとしっかり「ラノベを読むということ」についても書かれている良作。初心者は雰囲気をつかめ、玄人さんは「あるあるwww」って楽しめるので結構万人向けではないだろーか…とも思ったり。今月2巻が出ますが、続刊はどんな感じになるのだろうか?

4840124299ラノベ部 (MF文庫J)
平坂 読
メディアファクトリー 2008-09