「君の嘘、伝説の君」

いたい。
言われるのも痛いが、言い返すのも同じくらい痛い。
決意はしてみたがちょっと泣きたい。
ちな、と舌に音を載せてみると、口の中が恐ろしく甘酸っぱくなった。
だがどこかで、悪くない味だという気もする。
智奈と呼ばれて、神鳥の指先がわずかにヒクッとした。
それだけで、また軽めのパンチがいくつか胸に入ってきた。


あらすじ

K中学2年の男子、浅井操は授業で気の進まなかった読書感想文の音読をさせられ新学期早々気分を害する破目に。しかし、その自分では上手く書けてるとも思えない作文を欲しいと言う女の子があらわれた。人形のような無闇に整った容姿で語りかけてきた彼女の名は神鳥智奈。だが彼女は操に語りかけた次の日からぱったりと学校に来なくなってしまう。彼女のことが気になっていた操は、彼女の家を訪ね徐々に親交を深めていく。
一方その頃、主にK中生徒達の間では一つの噂が流行っていた。ウィッチウイルス―魔女の噂である。どうやら「魔女に魅入られた人間は、本人の幸せに比例して周りの人が不幸になっていく」という類の噂らしい。噂をなぞるように智奈と操の仲が進展するにつれ、事故に遭ったり怪我をする操の友人達。果たして彼女と魔女の噂の関係は―


掛け合いが良かった

『嘘』シリーズの第二弾。3→1→2って読んできたけどこれで制覇。来年はどーしましょ。
『嘘つきは妹にしておく』と舞台とか一部の登場人物で関連性があったらしいが、呼んだのが結構前だったのでその辺りはさっぱり記憶から抜け落ちていてわからんかった。が、やっぱりシリーズであるので基本的には同じような雰囲気。ちょっとファンタジー入ってて青くてどきどきセンチメンタルな所が。でも今回はいつにも増して登場人物同士の掛け合いに冴えがあった回だと思う。
その流れからだと、まず、智奈関連の破壊力が凄まじかった。自宅のベッドで「お兄ちゃん」プレイやら、二人きりで海に遊びに行く時に「瞬間移動気分を満喫したいから」手を繋いで優しく連れていってね?とか、正直素で読んでると「いたい」んだが…それでも!って感じで。智奈単品でなく、まだ中学生の操の反応や心中と纏めて見ることで、あの年代特有の初々しさが呼び起こされて色々と堪らない気分に。
次に、こっちは言葉通りに「心に痛い」面もあったのだけど、仲良しグループ内での関係の変化関連も今回は良かったと思う。普段明るく振舞っている人が容易く崩れゆく様とか、仲の良い友人って関係で括られているけど内心は…な様とかね。魔女の噂での疑心暗鬼もあったろうけど、普段大人しくて温厚な人の焚きつけるような内心の吐露とか好ましく無い展開ではあったけど、それだけに感情を揺さぶられました。このシリーズは身内同士だとあんまり黒い感情の叩き付け合いとか無いので余計印象に残った感もするな。


1作目、3作目とはまた微妙に方向性が違うものの実に『嘘』シリーズらしい作品だと思う。ただ、これも他の作品にも見られることだけど終盤の展開がパタパタと早すぎた事は読んでてやっぱり気になった。前半の内容と矛盾はしてないし、結末も落とし所としては優秀だだけど、終盤に入るまで謎…っつーか『嘘』関連の情報が少なすぎるので、多少なりとも出来すぎた話のように感じてしまった。…そのおかげで「魔女の噂」関連のミステリアスな雰囲気(内心での駆け引き?)がお話全般に渡って持続してて、いいスパイスになった、とも言えるので微妙と言えば微妙な欠点なんですが。

4840108862君の嘘、伝説の君 (MF文庫J)
清水 マリコ
メディアファクトリー 2003-10