「迷宮街クロニクル2 散る花の残すもの」

「ああ、もちろんいいですよ。お守りすると口だけで言うのは」
「口だけ?」
「ええ。私たちは実際には何が起きても手を出しません。探索のメリットになる人なら手厚く守りますが、取材では……。地下のすぐそこで亡くなられても遺体を持ち帰ることもしません。遺体を運ぶのも気がめいる作業ですから。口だけならあわせます。でも実際には何もお約束できません。それでもいいならどうぞ」
「……視聴者は知りたがっています」
「知りたい人はこの街にいらっしゃい。あなた方がどうしても見せたかったら危険を冒しなさい。私たちは十分見ていますし、他の方に見せるために自分の命を削る必要はありません」


「やだ、今の撮りました?怖い顔だったらやだなあ」


あらすじ

探索者の第二期募集が始まって1ヶ月。今回の募集で初めて迷宮街にやってきた真壁啓一と、彼の所属する《チーム笠置町》は優秀な笠置町姉妹の実力と、勿論自らの成長の成果もあり、ついに迷宮の第三層に歩を進める状況まで到達していた。現在、通常の探索者が進める最下層は第四層。第一期の古参が収入の安定を考慮して2層で探索の進行を止めるのも珍しくは無い昨今、ついに(優秀な一部の部隊のみではあるが)二期の部隊の成長が一期の部隊に追いつく状況が発生したのだ。
そんな折、迷宮の第四層で奇妙な性質を持つ鉱石が発見される。教官達によって性質を解明された、その石は迷宮内に限ってではあるが探索者の武器・防具の強化に役立つという性質をもっていた。第四層から遅々として進まない探索のブレイクスルーと成り得る可能性を持つ鉱石。その可能性を重くみた教官や一部の理事達は、超・実力者達のみで構成される部隊を発足、鉱石の採取を目的に第七層の探索を開始する。
そして更に迷宮街発足当初から勤め続けていた商社の担当者が、最近の利益率の低下を理由に新任に変わることとなる。新しい人・物が混じりあい、迷宮街は変革の時を迎えようとしていた―


まずは脊髄反射的に

Web小説「和風ウィザードリィ純情派」に加筆・修正を加えた作品の中巻。
『生還まで何マイル?』から未読だったため、続けて読んだわけですがページ数のわりに時間がかかったような…? 「440ページとか重いけど終クロ等々で慣らした私にはなんともないぜ!」と思ってましたが予想外に時間かかって深夜4時辺りまで読み続けることになったりも。長いよ!重いよ!で、まずは脊髄反射的に読んでて強く印象に残ったことをいくつか。
・2層最速伝説イニシャルI
これは1巻内容なんですけど…なんというボーパルバニー。前歯でクリティカルですね、わかります。和風ウィズだったってのを殊更強く意識した部分
・恩田部隊の…
2巻最大の見せ場…?もともと、いつかリタイアするような雰囲気のキャラではあったと思います。あの状況下で犠牲0ってのは在り得ない事だと思います。でも、あの結果は…最後の時が描かれていないのがまた
・おまけで教官チームと第七層
格が違いすぎるものは理解しようとしても出来ないものだけど、それを肌で感じた部分。通常探索者が4層で生きるか死ぬかの探索を行っているのに、七層で、アイテム探しって。この辺りの人は寧ろファンタジー。この規格外の部隊は今後どうにかできるのでしょうか。

…2巻はとにかく恩田部隊関連の前後が衝撃的過ぎましたね。


そして、ちょっと考えると

ぶっちゃけ、お話は面白くないよね
…もとい、ストーリーテリングやら、起承転結やらその辺りのお話を「語られて」楽しむ要素は薄いように感じた。中巻も終わった今になっても、物語の落とし所(≒目的地)が不明だったり、真壁がいやに賢者と化してたり、次々と追っている人物が変わる(+チーム笠置町は順風満帆)なので普通のライトノベルや、ドラマ等みたいにお話自体の流れや起伏を楽しもうとするとそこは物足りなかったかも。上巻は導入〜初めての部隊での探索まではそんなに寄り道しないで書かれていたので、それと比べると中巻は全体に目を向ける傾向が強くなってたような。
ただ、「お話」が軽んじられているからといって、断じてつまらないわけではなく。寧ろこの物語の見所は、大きな流れではなく、個々の探索者達の日々の行動と思考そのものにあると思う。「面白い」というか「興味深い」というのが相応しいような感じ。元々が「和風ウィザードリィ」なのでパーティ編成で無理やりタカ派ハト派・中立に分けられたり、勿論、迷宮内限定とはいえ『魔法』のようなトンデモ要素もあるにはある。が、そういうのを全部「そういうものだ」と前提条件に置いた上で残りはとんでもなくリアル。実際に迷宮に挑んでいる探索者はどんな考えで行動しているのか?なんとなく殺したり殺されたりしてるけど、実際にやるとしたらそれはどれだけ大変なことなのか?そして探索時以外の生活も。そんなifの部分を、架空の街を使ってやればいいものを(一応)現実の、京都にブチこんで繰り広げられる群像劇の濃厚さときたら!その世界の「空気」を楽しむ。お話を語られるのではなく、自ら感じ取るという行為が必要な点で所謂ふつーのラノベと比べると敷居が高かったり、読むのに時間がかかるのが難といえば難ですが、希な存在であり貴重かと思われます。漢は口で語るんじゃなくて、背中で語る的なことを考えるとしっくりくる。
あと、作中での『死』の使い方が特徴的かも。一過性的には盛り上がるのだけど、あくまで淡々とした『死』の扱い。それをいつまでも根にもって(特定の誰かの『死』を特別扱いして)本筋に絡ませてくることもせず、かといって主要キャラ皆殺しというわけでもない。迷宮の設定が設定なので『死』自体はありふれているのだけど…この辺りの線の引き方があんまり見ない感じで独特に感じた。
4797354097迷宮街クロニクル2 散る花の残すもの (GA文庫)
津雪
ソフトバンククリエイティブ 2009-04-15