「ドラマチック・ドラマー 遊月」

『こりゃくせになってるのすけ。やばいのすけ。んっ、これって結構オモロイのすけ。でも気を付けよう、クセになるとまずいのすけ』


あらすじ

遠い未来。遥か地球を離れた人工惑星キース・ムーンにひとりの天才ドラマーがいた。彼女の名前は遊月。彼女の目的は一緒に音楽を創造するバンドのメンバーを集めることだった。と、いうのも突然声を出せなくなってしまった彼女の母を治療するために、素晴らしい音楽で母に刺激を与えるということが必要になったからである。母の失われた声を再び銀河に響かせるために、世間知らずでお嬢様そだちの19歳は執事のブルースとともにメンバーを求め旅立つが―


ある意味すげぇ作品

とある大学のustで気になって読んでみた。アニメ監督等の仕事をしていた作者が、以前書いていた小説に加筆修正して出版された作品らしい。
誰もが一瞬考えつくかもしれないが「いやいや…それはないだろ…」的に誰もがやらなかった「音楽を全部擬音で表現しちゃった」ある意味凄い作品でした。前後の展開を除けば、セッション中の描写は割合良く書けているような気もするのですが、そこに投入される

ジョン・ション・バラララン。シャ・ジャジャジャジャジャ・ジョイーン

な感じの擬音の嵐!このインパクト!溢れるドラマチカ!…折角のいい場面が台無しです!他に類を見ない表現なので、裏を返せば見る価値があると言えばあるのかもしれませんが…この部分は難しいことを考えなければ面白いと言っていいのかもしれない。のか?
しかし、擬音ラッシュを長所と捕らえたとしてもやっぱり全体的に微妙な作品だと思うのです。擬音はすぐ目につくし、インパクトはあるのだけど本質ではない。展開の単調さがやはり一番重要な問題点だと思いました。色々な惑星を回ってバンドのメンバーを探して最終的に母親の声を取り戻すという大まかな展開自体はシンプルもシンプルですが…まだいい。わかり易いのはいいことです。けど、各惑星毎の展開が、トラブルに巻き込まれる→スーパー執事パワーでシュシュっと解決→ライブ→バンドメンバーげっとだぜ!で共通って(一つだけ違いますが)どういうことよ。まぁその中に遊月の成長やらドラマやらあればいいんですが、実際遊月がバンド演奏中以外でやってるのは面白くない言葉弄りだけで…ぶっちゃけ何があっても「ああ、そうですか…」としか思えないのが苦しい。
やっちゃった感溢れる擬音表現部分は悪食の人には一見の価値ありかもしれない。けど他の部分は推して知るべしなので高度なマインスイーパーにしかお勧めはできないかも。

4758040273ドラマチック・ドラマー遊月 (一迅社文庫)
四辻 たかお
一迅社 2008-09-20