「偽りのドラグーン」

「……今すぐ竜脈を制御できなくてもいいと思います」
「あなたに焦る必要はありません。このままゆっくり練習すれば……なんですか?」
「……あ、ありがとう」
「なぜ礼を言うのですか?」
「だから、その……」
「その、励ましてくれたんだろ。だから礼を言っとこうと思って」
「ち、違います。励ましてなどいません」
「え?じゃ、なんだよ」
「それは……」
「とにかく、礼を言われるようなことはしていません!」

ここだけなら可愛いツンデレだと思ってたんだがなぁ…


あらすじ

アバディーン王国の王子、ジャン・アバディーンには瓜二つの外見を持つ優秀な兄・ヴィクトル・アバディーンがいた。だが、兄の王位継承の儀式の日に王国は機械文明を擁する超大国であるレガリオン帝国に急襲され、ジャンは祖国も兄も同時に失ってしまう。
数年後、難民として拾われ素性を隠して孤児院で暮らすようになっていたジャン。だが、彼のレガリオン帝国への復讐の念は絶えることなく、彼は剣の修行の為に孤児院を抜け出て武術が盛んな国・カリクマ行きを望むようになる。が、顔が広い孤児院の院長の根回しのせいで、彼を乗せてくれるような商船は皆無であった。そんな中、彼の前に一人の少女が現れる。彼女はジャンを竜騎士養成学校に入学させると言ってくれた。が、それは今は亡き兄の身代わりとしての偽装入学で―


ベッタベタだが…

ドラグーンといったら竜騎兵(馬に乗った銃持ちの騎兵)でマスケット銃とか持ってるんですよねー、まさか文字通りに竜に乗った騎士とかじゃないですよねー…と考えてたら、素直にファンタジー竜騎士でいきなりちょっともにょる。一応、騎兵で銃(銃剣)持ってますが。しかも、学園物だったりで、ファンタジー竜騎士+学園物というある意味正統派ラノベな組み合わせにくらくら。…読み終えてみたら、正統派な流れを押さえつつ、要所要所で楽しめたのでそれなりに面白かったが。
まず、主人公のジャンが面白い!…ってことは断じてないんだが、この手の学園ファンタジー物にしては謙虚な扱いだったのが個人的に好感触。兄は神童と呼ばれるほどの優秀な人だったのだが、弟のジャンは良く言って軒並み人並みレベルの人物でしかなくて。そういった人間が、神童としてエリート学園に偽装入学→化けの皮が剥がれていく様や、それでも腐らずにきっちり努力を重ねていく様が普通に描かれていたのは凡人でしかない私達にとっては親近感が湧く展開でよかったと思う。この手のヒロイックなファンタジー物だと主人公はイケメンで強くて当たり前な風潮がありますから…先生にウジ虫呼ばわりとか、嫉妬深い上級生に因縁つけられて、かつフルボッコにされるとか地味だが新鮮だったかもしれん。最後の覚醒モードは…伏線散々張ってあったし仕方ないとは思うのだけど、できれば次以降もあまり「物理的な強さ」に頼ることなく、堅実な生き方を重ねていって欲しいと思った。私は凡人が泥にまみれて努力する様を応援したい。
あとは、タイトル通りとでもいいますか、登場キャラが多かれ少なかれ「嘘」を抱いている所が素直な話には良いアクセントになっている、かな。クリスのこととか、今思うと名前が名前だけに気付く人はすぐ気付くのかもしれないけど、私は最後までそう思ってはいなかったので、純粋に驚きましたよ。フレデリカ姉も「ヤンデレからガチレズに華麗なクラスチェンジだと…?なんたること!」と一瞬思ったけどそんなことはなかったぜ。普通に人情味溢れる「姐御」なのね。そして最重要問題かつネタバレ厳禁のティアナ嬢。単なる不思議なツンデレちゃんじゃなかった。最後の告白で今までの行動の意味が一気に裏返るのは中々…いい場面で終わってくれますね。
トリッキーな構成とか、作りこみに圧倒されるとか、とても感動するとかそういったことは無かったのだけど、普通にお話の続きが気になるという意味で結構面白い作品だと思いました。ジャンとティアナって目的が一致してると見せかけておいて、その実、真の目的が対極に位置してるとか、今後の展開が気になります。これはもうちょっと追ってみる。
4048679473偽りのドラグーン (電撃文庫)
アスキーメディアワークス 2009-08-10

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