「ストーム・ブリング・ワールド2」

「あなた……なに、笑ってるのよ」
「笑ってた?」
「わ、笑ってるわよっ、その顔っ」
「ふぅん。俺……笑ってるんだ」
「な、なんで、急に笑うのよ。前に笑おうとしたときはちっとも笑えなかったくせに。こんな時に、あなたが笑うなんて……」
「ごめん。つい……」


「やっぱり、守る相手が、君で良かったなと思って」


あらすじ

アーティを守るという密命を受けて『神殿』に遣わされた少年セプターのリェロン。しかし、黒のセプターと王宮の騎士団の共謀する卑劣な罠にはまったリェロンは処刑されてしまう。失意の底に叩き落とされたアーティを立ち直らせたのは、リェロンの遺したカルドと学友達。そしてアーティは街を救うため仲間と共に騎士団に立ち向かおうとするが―


昔と今

6年程前にMF文庫Jから出ていた作品の新装版の2巻。これにて完結。
原作がゲーム版にあるとはいえ、ファンタジーな世界を舞台にしたガチなボーイ・ミーツ・ガールなお話に徹していて読んでいて素直に楽しめた。冲方はなんだかんだ言って昔も今も極上に上手い作家さんではあるのだけど、最近は熟練してきて減りつつある青臭さというか、そんな所が(加筆部分とは対照的に)新鮮に感じられたのが予想外に良かった…のと、一つ思うところがあったり。
1巻で旧版2巻の領域までだいぶ踏み込んで進めてしまっていた(+記憶に無い設定がでてきたりしてた)ので、加筆修正と思わせておいて2巻ではストーリーの展開がだいぶ異なることもあり得るのではないかと思っていた。が、実際にはラスボスが違ったり、エピローグが削ったり足されたりしていたものの、着地点は一緒だった。余裕ができた部分は『嘘』というテーマに沿って新規要素と共にお話上のトリックに使われたりしていて、それにより全体の完成度は高まっているように思える。が、敢えて着地点を一緒にするならば、その余裕があった部分はもっとアーティとリェロンの関係を描く方向にウェイトを置いて使っても良かったのではないかと。旧版と比較して該当の場面が減ったことはなく、寧ろ増えてはいるのだが…ボーイ・ミーツ・ガールに主軸を置くのならそちらの方が自分は好きだ。追加部分は、上手いし、役目が変化した騎士団長は好きなんだけど…その辺りちょっともにょる。
勿論、今の冲方も好きですよ?けど昔のうぶちんの持っていた青臭さとかそういったのもやはり好きなわけで…テスタメントシュピーゲルのあとがきで「最後のライトノベル」とか書いてたように、段々とこういったような作品が出なくなるのはちょっと寂しい気もしなくもない。
4840130485ストーム・ブリング・ワールド2 (MF文庫ダ・ヴィンチ)
メディアファクトリー 2009-10-21