劇場版"文学少女"

当初は見るかどうか決めかねていたのですが、予定外に用事が早く終わってしまい時間が余っていたので公開二日目ということもあり池袋のシネ・リーブル池袋で観てきました。
その日の最終回ながら劇場の埋まり具合も中々よかったのではあるが、それでも劇場の3/5だったので二日目ということや休日だったことを考えるとこれは意外と早く終了するのかも…と思ったりも。


あらすじ

高校生である井上心葉は過去に経験した事件の痛手から心にトラウマを抱えている。そんな心葉を無理やり文芸部に入部させ、毎日彼に"三題噺"を書くことを要求する部長の天野遠子。天衣無縫で明るい遠子の性格に振り回されながらも、その明るさ強引さにだんだんと癒されていく心葉。二人の明るくも穏やかな日常が2年近く続いたある日、心葉はトラウマの原因となった少女、朝倉美羽と再会することになるが―


いいから原作を読め、と

まず、自分は原作を「見習い」以外は全部読んでいるのでそれを前提で。
水妖や挿話集の内容を完全に無視したとしても、文庫6冊分の内容を2時間のアニメ1本で消化するのはまず無理。なのでこの劇場版は結末自体は原作と大体同じになっているものの、それ以外は原作5巻である『慟哭の巡礼者』の出来事をメインに据えたダイジェスト版"文学少女"、というような体になっていた。本編のメイン筋である心葉と美羽の関係に重点を置いた(逆に言うとそれ以外はかなり省略されている)構成にしたのは、尺の長さがある程度決まってしまっている+TV版があったわけではない単発で完結する劇場版としては仕方がない所なのはわかる(興行収入的な面とかで)。だが如何せん原作既読組からすると内容を端折りすぎに思えた。
確かに遠子先輩の文学語りや、それで問題を解決していくという物語的には一番美味しい場所:幹はきっちり表現されていた。が、それ以外の物語の厚みを増すはずの子葉に当たる部分がばっさりカットされてるので、どうにもこうにも人物像が薄く感じてしまう。特に櫻井流人や竹田千愛といった原作ではある意味主人公たちより重い業を背負った面子の背景描写が一切無いのが痛い。美羽は結構登場シーンが多かったものの、それでも今回の劇場版の内容だけの情報しかないと、唐突な心変わりとか「どうしてそんな行動をとったのか」という理由が理解できずに単なる悪役の印象しか残らないのではないだろうかとも思った(EDでは幸せそうだったけど)。たしかに原作でも実際に本筋が動き始めたのは『慟哭の巡礼者』辺りからだろう。けど、それ以前の事件で心葉達が経験して成長していったこと、その事件に関わった人達の事情、色々な事が絡みあって最後の「幸せの地」にようやく手が届くようになるまでの経緯が素晴らしい作品だったのにそこを省略しては作品の魅力半減ではないのか。
ただ、2時間制限のあるダイジェスト版という縛りにおいて、原作未読の人にも本編の内容を一通り(表面上)は伝えるという目的においては成功していたのではないかとも感じた。たしかにダイジェスト版ではあるものの、各シーンが全く独立してて原作を読んでないと意味がわからない、という状態は全く無かったし、劇場版に出てきたシーンもこれだけ制限がある中で「これだけは外せない」というシーンを上手く選んでいると思う。TV版やら原作読んでることやら前提条件アリアリな上で、3時間という長い時間を使って文庫「1冊」を忠実に映像化した某消失とはラノベの映画なのに全く逆のアプローチなのが興味深い。
本当に「劇場版やるよ!」以外の事前情報なく観に行ったので、既読組としてはなんか肩透かしを喰らった感じですが、逆にこの映画は未読の人の入門用としては結構いいのではないかとも思ったり。一応最初から最後まで1本の映画として「観れる」ので。もしこの映画を見て少しでも面白く感じたのなら、原作は(細かい描写が増えてる分)もっと面白いはずなので是非読んでみて欲しいなぁ。
しかしメインビジュアルは何故こんなにアゴが強調される画像を選んだのだろうか。確かにアゴは本編でも気になったとはいえ他にいくらかマシな画像があったろうに…
404726508X劇場版 “文学少女” -appetizer-(DVD付)(エンターブレインムック)
エンターブレイン 2010-04-21