「円環少女(5)魔導師たちの迷宮」

「……今日は、あんたの、恥ずかしい写真の撮影会をしようと思うの」
「なに突然言い出すんですか!」
「どうして自分のいやらしさって、ひとりじゃわからないのかしら。名前も顔も知らない男の人のにおいをそんなに体にすりこんで、あんた一体どうなりたいの?」
「靴下なんてすきじゃありません!」
「あら、こんなふうに写真を撮られるの、はじめてなんだ?びくって、体が止まったわ。嘘じゃないわ。ほら、もう一枚とるから。……そんな顔して、撮られるのスキなのね?学校では隠してた、そのおすまし顔の裏で渦巻いているもの、さらけ出しちゃいなさい」


魔法を『観測』されることで消去されてしまうことから、数多ある魔法世界の住人に『地獄』と呼ばれ蔑まれている世界・地球。犯罪魔導師を管理している『公館』の専任係官<沈黙>武原仁と<円環大系>の使い手鴉木メイゼルが未曾有の戦いに挑む現代を舞台にしたファンタジー
ワイズマン警備調査会社によって奪取された核爆弾はテロリスト・国城田の手に渡った。首都壊滅の危機に際し、『公館』は総力をもって立ち向かう決定を下す。だが、専任係官<魔獣使い>神和瑞稀と<再演大系>の使い手倉本きずなは事態の黒幕である王子護に連れ去られたままだった。警察との協力体制をも取りつつ事態の解決に奔走する面々。そんな彼らの前に歴史の闇に葬られた『もう一つの日本』が姿を現す――


専任係官、大・活・躍!
今まで『公館』の恐怖の象徴とか呼称されつつも、敵の方が凄すぎたり主人公である<沈黙>の能力が「魔法消去をしないようにできる」という地味な能力であったので今ひとつ実感が沸きませんでしたが5巻ではやっと『恐怖の象徴』に相応しい活躍を(拉致中の1名除く)。やはり十傑集とか九大天王とかそういう集団が圧倒的な力を持って敵を粉砕するっつー描写はお約束ながら燃えますな。特殊な能力無しに、ただその刀技のみで<完全大系>の高位魔導師・王子護と互角以上に戦う<鬼火>さんも渋くて良いのですが、今回一番の魅せ場があったのはやはり<茨姫>ことオルガさんでしょう。公衆の面前で上品なエプロンドレスの下に隠された拘束衣に覆われた肢体を晒し、自ら自分の腕の生皮を剥ぎ、体の45箇所に杭を打ち込み、32箇所の骨を折り失神寸前まで追い込まれながらもその『痛み』を持って敵対者を完全に抹殺するシーンは色々と凄絶。そりゃ作った人は変態科学者呼ばわりされるわと。あとは今回多少活躍しつつも字(あざな)と能力の詳細が未だに描かれていない八咬誠志郎の今後の動向が係官中唯一の主人公の友人としての立場もあり気になるところ。
前回が発端と過去の話ということで文章量の割りに今ひとつ盛り上がりに欠けた感がありましたが、今回はストーリーの方も歩みは遅いもののきっちり進行。お話の進行、バトル分、サドデレ分の割合が今回はバランスよかったと思います。作風なのか『公館』、『テロリスト』、『魔法世界?』の3者の視点と、作中の歴史、政治的背景がしっかり描かれていてファンタジーでありながら現実感がある世界を描けている点は相変わらず流石。その分というか読みにくさも相変わらず流石。いかにも複線という記述も散見されて次巻以降が楽しみなんですが…何ですか最後のあの持ち上げて落とす展開は。いい所で続きますなぁ。


■感想リンク■

4044267073円環少女 5 (5)
長谷 敏司
角川書店 2007-04