「オペラ座の怪人」

「さあ!……これをあげよう!……おまえ自身のために……それから彼のために……これが私からの結婚祝いだ……可哀想な不幸せなエリックからのプレゼントだ……おまえがあの青年を愛していることはわかっている……もう泣くのはおよし!……」


『黄色い部屋の謎』等で有名な作家ガストン・ルルーのサスペンスの古典。原作よりも映画やミュージカルの方で有名な気がしなくもなく。
十九世紀末、パリ。華やかなオペラ座の舞台裏では奇怪な事件が続発していた。時を同じくして、オペラ座で鮮烈なデビューを果たす歌姫・クリスティーヌ。かつて彼女の幼馴染であったラウル子爵は舞台での彼女を見て一目惚れしてしまう。楽屋裏で二人は再会を果たすものの、彼女は何故かラウルを知らぬような態度をとる。そんな彼女の周りに度々現れる『音楽の天使』そしてオペラ座に暗躍する『OのF』。謎が謎を呼び、ラウルは恐ろしい事件に巻き込まれていく。オペラ座の怪人とは何者なのか?そして彼らの行く末は?


何故このタイミングで『オペラ座の怪人』なのか。察してください。まぁ、自分は元ネタを読んでから読み始める派ですよ、と。
全体では400ページ強。遅くとも4時間程度で読了できるはずなのに予想以上に時間がかかった。新訳とのことなので文章表現自体はそんな引っかかりは無かったのだが、何分原作自体が状況描写にかなりの文字数を割いているのと、改行がやっぱり少ないのが原因か。これが普通、ってわけでもないのだろうけど最近はライトノベルばかりであったから見開きに圧迫感があった。新訳でこれだから旧訳だとどうなることやら…
そして文章量にしては実はストーリーの筋は単純。その姿の醜さにより今まで愛されることのなかった男が初めて人に愛され、愛することを見出すお話。ラウル・クリスティーヌの感情描写は丁寧で特に問題無いと思うのだけれど、『怪人』の『人間』としての心理描写(特に前半)が弱い気はした。ラストはいいお話だけど、前半は単なるストーカーにも見えなくはなかったり。全体の構成がクリスティーヌの『音楽の天使』のお話、オペラ座の『怪人』のお話を平行して進めつつ最後に『ペルシャ人』が絡んだ解決編な流れなので、『怪人』が引き起こす奇妙な事件に文章量を割かざるを得なかったのが原因か?その分神出鬼没の『怪人』らしさは存分に描かれていると思う。○○○○の『人間』と『怪人』オペラ座の『光』と『闇』の対比がよかった…んだけど『光』『人間』といった部分が売りなのに弱くは感じたのも事実。原作は以外にオペラ自体の描写少ないのね。
ちなみに映画は未鑑賞。原作⇒映画の人は「エンタテインメントとして良くできてる」映画⇒原作の人は「原作地味じゃね?」という流れなのが興味深い。借りて観てみようかしら。

4042840019オペラ座の怪人
ガストン ルルー Gaston Leroux 長島 良三
角川書店 2000-02