「うさぎの映画館」

「窓際の席かあ。私なんて教壇の前だよ?迂闊なことできないし、早く席替えしてもらいたいよ」
「ここも眠くなりやすくて大変だよ?とくに春先は気候が良くて」
「なに贅沢な悩み言ってんの」


新人デビュー作。
『銀河堂』という骨董店でバイトをしている素朴な少女静流。ある日、銀河堂に骨董品の買取をして欲しいという少年が訪れる。その時はわからなかったものの、実は彼は同じ学校の同級生であった。ふとしたきっかけから知り合う二人。ある日、彼は静流に写真のアルバムを見せる。その写真の中には静流が夢の中で見知った景色があって――


不思議な品物が集まる骨董品店というと、同じ電撃文庫付喪堂骨董店がある。前者を知ってる方には違いが気になる所かもしれず。しかし実際には『アウターゾーン』と『文車館来訪記』程度には、方向性が異なるので読んでみた後では2番煎じとかそういった考えは全く払拭された。付喪堂骨董店の方の骨董品は所謂"マジックアイテム"という奴で骨董品店を題材としつつ戦闘要素とかライトノベル的には正しい方向に進もうとしてるのが伺えるのだけど、この作品はメインの舞台が骨董品店というくらいで普通に"変わった"品物しか登場せず実に地に足の着いてる話だったり。…比較対照として『文車館来訪記』は実は苦しい。意外と何事も起こらない骨董品店のお話って無いものだなぁ。
内容は、ほんわかまったり風味。地味とも言うが。骨董品店と同様に学校生活の方も描かれ、友情あり恋ありの微笑ましい光景が繰り広げられます。読んでいて優しい気持ちに。新人にしては(というか普通に?)文章も上手く読み辛かったり鼻につく表現等が多発したりは無かったように思います。人物造詣もこれといって違和感も無く、すっと読めたのは好感触。このレベルで何事も無い話はこの界隈では少ないのでそういった意味では貴重かと。
ただ、読み終えて気になったのはオチのつけ方。綺麗な終わり方ではあるのだけど、ありきたりっちゃありきたりなので道中のまったり展開も含め「ああ、いいお話ですね」くらいの印象になってしまったのが残念。各章末にハッとさせられるような表現(複線?)が見受けられたのだけど、結局結末に関わることなく放置されていたのが気にはなった。精神的に「重い」感じのする要素ではあるので、これを前面に押し出すとなるとかなり結末の印象も変わっていただろうに…ほんわかまったりでは無くなる気もするが。意図的?
最後の最後の『アレ』は、この本を読んで唯一のサプライズ。アレがなかったら一回も「ぇぇぇぇぇぇ」と思うことなく終わっていたとは思うが、正直蛇足ではないか。まぁあっても支障無いのだけど、面白い複線を放置してまで守った雰囲気が喰われちゃいました。

484023843Xうさぎの映画館
殿先 菜生
メディアワークス 2007-05