「樹海人魚」

絶対零度のバービードール vs. 永遠の早摘みの果実、真名川霙(みぞれ)。
「あ、あ、やばいかも……」
ミツオが間に入った瞬間、どちらからともなく唇の砲門を開く。
「なーんだ、ほんとに可愛いね。制服に着られちゃってんじゃん」
「…………自分は、任務で着ているだけでありますが?」
真名川、あんた、ほんとにそんななりで酸月と戦えるの?」
霙はゆっくりとミツオに首をめぐらせると、ゾッとするほど愛らしい笑みで訊ねる。
「ミツオ、ひとつ確認したいことがありますです」
「み、霙ちょっと待とう。それ、しない方がいい質問でしょ?」
「この、おしゃまなバービードールは、誰の玩具(おもちゃ)でありますか?」

かわいいよ霙かわいいよ


あらすじ

強大な力で街を破壊し、人々を殺し、何度死んでも蘇る恐怖の存在―"人魚"。人間はその怪物を飼い慣らし、"歌い手"と呼んで同類退治の道具としていた。歌い手を操り人魚を狩る"指揮者"の森実ミツオは何をやっても冴えないグズの少年。ある日、彼の住む街『月型郡』に10年ぶりに強大な人魚が復活する。数少ない指揮者として否応なしに戦いに巻き込まれるミツオ。自らの歌い手を見失い、戦場の真っ只中で孤立してしまったミツオはそこで一人の記憶を失った歌い手と出会う―


日和った?

その独特の文章センスで我らを驚かせる中村九郎の新作。…なんかレーベル(というか出版社)に縛られてない気がするね?次はMF辺りで出してくれると面白いのだけど。
序盤(と、個人的に酸月初対面時)相変わらず突飛な展開で、良くも悪くも「ああいつもの中村九郎だ…」と安心してたんですが読み進めるに従い「あれ?普通に読めるよ?」な感想に。独特な言い回しは健在なので突飛な展開を抑えているのが原因か。前作より更に一般寄りになってます。ヒロインも普通に可愛いし、絶対零度ツンデレ幼馴染との三角関係勃発もあったりと作者に一体何が?状態ですよ。とはいえ現実離れした雰囲気の表現はお手の物、一旦後まで読んでから気になった所を散見するに、割とすんなりと理解できたりもするので進化…してるってことなんでしょうか。『ロクメンダイス』でその異次元の文章センスに打ちのめされ、『アリフレロ』でその作風を確固としただけに普通に読み易くなっていくのは少々寂しい気がしなくもなく。そもそも何を基準としているのかが不明瞭ではあるのだが、今作くらいが中村九郎成分のボーダーな気がする。
ちなみに刊行からの時間も難易度?も『ロクメンダイス、』>>『アリフレロ』>『樹海人魚』だと提案。『黒白キューピッド』は未読。今度読んでみるか…。
4094510060樹海人魚
中村 九郎
小学館 2007-05-24