「みすてぃっく・あい」

「女同士なんて、ヘン?」
「……ぇ……、え……?」
「やっぱり、ヘンかな?」
「ぁ……と、べつに、ヘンとか…………、そ……いうことは……」
「本当に?」
「……っ……」


「あらあら……大胆ですわね……わたくしの眼の前で、背徳的な行為に及んでしまいますの…………?」
「部長っ!だまっ、つ、つ、入ってくる時に声くらいかけてください!」
「……そうは言われましても……、随分とお愉しみの御様子でしたので…………ええ、わたくしも理解はある方ですので、かたいことは申しません。……構いませんわよ?御二方が淫らな行為に耽ろうが…………」
「耽りませんから!」


あらすじ

冬休みの女子寮には、4人の美術部員しかいなかった。
ぼけぼけおっとりの沖本部長に読書魔の天才・三輪先輩、あっぱらぱーの門倉せりか、そして優柔不断な私・久我崎蝶子。
奇妙な既視感―或いは世界に彼女らしかいない錯覚を覚えつつも、私達は毎日を戯れて過ごす。
―けれど、せりかと先輩に迫られてしまったから。私は選ばなければいけない、アイの行方を。


このタイトルとあらすじは駄目だろ…常識的に考えて

折込チラシにも「少女セクトに感銘を受けて…」のような事が書いてありソフト百合物かなーと想像。タイトルとかあらすじもそんな感じで。閉鎖された女子寮でキャッキャウフフなお話かとそんな風に考えていた時期が俺にもありました。
読後。
なんじゃこりゃぁぁぁぁ
実はこのお話は量子論や確率論、終いには歪んだ魔術的薀蓄が絡むSF物だったのです!…ってSFとも言えないような気もするが。
帯には『幻想百合ミステリー』の文字がひっそりと。まず、百合自体は多分に関係してきてはいるのでOK。ミステリー分に関してはあるにはあるが要素程度で「このお話はミステリーですよ」とは言いきれない。
では何だ?と思いつつ見つけた『マスマティカル・百合フィクション』なる文字列。ああ、これは良い。個人的には一番相応しいかなーと。
まぁ、全てひらがなのタイトル、オリジナルのあらすじが雰囲気にあってないのは確定的に明らか。
嘘を言ってないのがまたなんとも。ならば原題『虚数の庭』にすれば良いのかといえばそれもまた微妙なのが面白い。表紙、あらすじ、タイトルをトータルで変えれば違和感無いのだろうが、内容と見た目の第一印象が剥離しているこの状況も味があっていいのかも。


内容に関して。
物語としてはそんなに面白くない。百合、SF、ミステリの各成分が等しく中途半端で。
ただ、幻想的かつ理論的な独特の雰囲気は上手く描けているのでそこは堪能した。微妙〜に苦しい箇所もあるにはあるが。出てくる物、場面、台詞にいちいち何らかの関連付けor比喩があって全体として主題を彩っているのには関心しかり。と、いうかこの主題でお話も面白かったら相当なものではないか。
「気軽に紅茶でも飲みながら、キラキラしててちょっぴりドキドキでちょっぴり切ない物語をお愉しみいただければ」(あとがきより)というのは成されていると思う。ページ数そう多くもないしね!
今回のテーマだからなのかはわからないが、あまりライトノベルらしくない文章を書く人だと思う。ミステリ畑の方が近いような?次回作はえろてぃっくなメイドさんの調教物を構想中とのこと。まぁーそれがそのまま通るかはわからないが、通って欲しいなーと思いつつ次にも期待します。

4094510273みすてぃっく・あい (ガガガ文庫) (ガガガ文庫 い 3-1)
一柳 凪 弧印
小学館 2007-09-19