「そばかすのフィギュア」

優しくしてやる。
死にたくなるくらいに、優しく。
優しさはいつまでも心に残るから。激しい罵倒よりもずっと長く、ずっと残酷に。
覚悟して。<私のあなた>。
優しくしてやるわ。


あらすじ

雨の檻
ある惑星を目指して航行中の宇宙船の中。免疫不全のため無菌室から出れない少女シノ。彼女は世話役のロボット・フィーと暮らしていたが、フィーの様子が最近おかしくて―
カーマイン・レッド
周囲の環境に耐えられず転校した主人公。が、転校先でもその状況は改善しなかった。ある日先生からロボット・ピイの世話を半ば強制的に命じられる。孤立していた主人公は絵画を通してピイと仲良くなっていくが―
セピアの迷彩
智子は恋人を事故で亡くしてしまった。恋人はクローン再生にかけられたが元の年齢に戻るには相応の年月が必要になる。叶えられなかった恋を己のクローンに託し亜光速実験船プロジェクトに参加する智子。時間の流れが違う状況の中、同じ年齢になった彼女(達)が対面する機会がくる。はたして彼女の胸中の思いは―
そばかすのフィギュア
アニメのキャラコンテストで最優秀賞を受賞した靖子。商品として彼女に送られてきたフィギュアは最新テクノロジーで自在に動き、設定に応じた感情まで持っていたが―
カトレアの真実
治療困難な死病が蔓延する街。死病を発症した私は顔にカトレアの刺青がある男に誘われ一夜を共にする。が、ある日突然その男がいなくなって―
お夏 清十郎
白扇奈月は白扇流の若き家元である。彼女は意識を過去に飛ばして当時の舞を現代に復活させることを生業としていた。が、その副作用として身体を動かすことが次第に困難になっていく。そんな折、新弟子の夢月が白扇流に入門してきた。実は彼女も同じ過去を見る能力を持っていて―
ブルー・フライト
試験管ベイビーが一般的になった時代。彼らは親の事は基本的に知らされないが、親の残した『遺志』を尊重して生活していた。主人公・アヤの場合は「翔びなさい、アヤ」。彼女はその言葉通りに航宙士を目指す。が、最終試験の際、彼女に目に違和感が生じて―
月かげの古謡
幼い頃より父親から英才教育を受けて育った領主の息子。彼はいつまでも自分を見下す父親に一泡吹かせるために、大量のお宝が眠るという西の森に向かうが―


女性的なSF

ハヤカワ文庫JAで以前出ていた『雨の檻』(現在絶版)に『月かげの古謡』を加えて復刊。
管浩江はこれが初なんですが…すげぇ、すげぇよ。こんな作品が10数年前に出ていたことに驚愕。読んでてあまり古さを感じさせない上に総じてクオリティ高し。表題作の『そばかすのフィギュア』なんて15年前ですよ?
収録作は全8篇。SF(っぽいの)七つに文庫初収録の『月かげの古謡』がファンタジーで一つ。舞台設定やネタのバリエーションも多い上に作者の作風も窺えて短編集としては理想的な形かと!
デビュー作の『ブルー・フライト』は流石に「青さ全開で突っ走ってみました」って感じでちょっとアレな気もするが。
既に書いてあるとうり、それぞれ舞台設定も主題も異なっているためお話自体も全く異なっている…はずなのだが不思議と一貫性もあったり。SFの短編とくれば、アイデア勝負のトリッキーな話が思い浮かぶが、この短編集の場合それを軸にして『人間の想い』を描いているお話が多いと感じられた。SF要素の説明的な描写はできるだけシンプルにまとめていて心情描写に文字を割く辺り非常に女性的。切ない終わり方、優しい表現が多いのもそれに拍車をかける。
こういった女性的で心情描写を主にした作風こそ時間が流れても作品に古さを感じさせない一因ではないかと思う。文章も読み易く中身も濃い。加えてこういったSFはあまり読んだことがなかったので希少価値も含めて大変にお奨め。…永遠の森も買ってこよう。
ちなみにこの中では『セピアの迷彩』がお気に入り。HAPPYなんだかBADなんだかわからないEDではあるのだけど、オリジナルとクローンの問題を合わせ鏡のように描かれていて、こんな終わり方もあったのかと。
4150309027そばかすのフィギュア (ハヤカワ文庫 JA ス 1-4) (ハヤカワ文庫 JA ス 1-4)
菅 浩江
早川書房 2007-09-21