「さよならピアノソナタ」

「……弾くの、楽しい?」
「うん、まあ。弾きたい曲がだんだん弾けるようになるのはけっこう楽しいよ」
「そう」
「ギター楽しくないの?」
「全然」
「楽しくないならやめればいいのに」
「あなたも死ねばいいのに」


あらすじ

海岸沿いにある粗大ゴミの投棄場所で、一人ジャンクパーツを漁っていた桧川ナオはその場にそぐわない物に遭遇する。ピアノの独奏。その旋律は彼にとって聴き覚えのある物だった。蛯沢真冬、弱冠12歳で華々しいデビューを果たした天才少女ピアニスト。その後2年半の間に数々のレコードをリリースしながらも15歳で楽壇から姿を消した謎の存在。彼女は語る―「全部、忘れて」と。
高校に進学したナオ。ある日、彼のクラスに転校生として真冬がやってくる。自己紹介で「……六月になったら、わたしは消えるから」と言い放つ真冬。クラスの中で孤立していた彼女に、ナオも深くは関わらないつもりだった。
放課後、CD鑑賞の為に無断借用していた空き部室に向かうナオ。だがそこではピアニストのはずの真冬が何故かギターの超速弾きをしていて―


インパクト不足

神様のメモ帳』のニート探偵やら『火目の巫女』のsnegな表紙やら(これは作者関係ない気もするが)なにかしらインパクトのある作品を出してきた杉井光の新作。なんというか、全く普通のボーイミーツガールもので逆に意外であった。
真冬の秘密に関する伏線も序盤からきっちり張っていた。物語の最初と最後が共に同じ場所で展開される粋な演出。しっかりタイトルと絡めつつ余韻のいい結末。と、構成はなかなか。文章の表現も特に問題無し…なんですが綺麗に纏まり過ぎて逆にインパクト不足。悪くはないのだけど、「これは!」っていうのが無い感じ。本来、音楽の薀蓄に関する所が個性なのだろうけど、自分にはさっぱりだったのが要因としてあるかも。
ストーリーの流れも順調過ぎた。もっと波乱があっても良いと思う。せっかくの幼馴染が空気です。
あと個人的に、ナオが真冬に惚れる理由がよくわからなかった。いや、ナオの(怒りから始まった)考え方の推移は十二分に納得できたし、(自分が)真冬に嫌悪感を抱いてたとかそういうのではないのだけど。まだ恋愛関係じゃないから当然なのか?
484024071Xさよならピアノソナタ (電撃文庫 す 9-6)
杉井 光
メディアワークス 2007-11