「ツァラトゥストラへの階段」

「押し倒して欲しいのか?」
「やってみなさいよ」
「何それ。まさか隠しナイフ?」
「携帯スタンガンよ。スイッチを入れると針が伸びて、そこからコンデンサーで蓄電した電流が流れるシステム。試してみる?」
「いいよ。しまえよ。」
「いいじゃない、試したことないのよ。びりっとくる程度よきっと。ねえ、うふふ」
「やめろって」
「お願い、ちょっとだけ、ねえ、あはっ」
「いいって、よせよ」
「ふふっ、もう、意気地なしなんだから……」

舞がヒロインにしか思えないんだがどうか


あらすじ

高校生・福原駿介は気付くと見知らぬ密室の中に閉じ込められていた。
彼を含めて部屋の中には11人の人間。各々の手にはいくらかの食料・1000万円の現金・数字が刻まれたカード、そして拳銃。

  • プレイヤー要素の1/4の人間は所持金を全額持ったまま部屋の外に出ることができる
  • プレイヤー要素の1/2の人間は所持金を半分失って部屋の外に出ることができる
  • 残されたプレイヤーの内一人は首を吊られてしまう
  • ドアを起動させるには過半数の支持が必要

欲望と計略渦巻く中、果たして福原は無事に外に出ることができるのか?そしてこの事態を引き起こした者の目論見とは―


ゲーム小説として

『扉の外』の土橋真二郎の最新作。新人にしては筆が早い感じですね。
そして今回もゲーム小説。「も」って前作がどの程度ゲーム小説してるかは『扉の外』未読なので不明、伝え聞いた話ではそうらしい。どうやら世界設定も共通している所があるみたいだけど…。
と、いうわけで『扉の外』関係なく主に単発でのゲーム小説としての感想になります。


ぶっちゃけ「Split Game」は良かったけど「Interest Game」は微妙。
コンゲームの醍醐味は息詰まる心理面での駆け引きと、それら全てを吹っ飛ばす最後の「一撃」です。「Split Game」にはそれがあったけど「Interest Game」にはそれが無かった、と。
「Split Game」はあらすじに書いてあるルールのゲーム。通常、ゲームってのは双方それなりに精通していないと駆け引きも何もあったもんじゃないのですが、全く新規のゲームをプレイさせつつ駆け引きっぽい状況を作り出しているのが秀逸だったかと。ゲームに「勝つ」には「負けなければいい」わけで、要は残されなきゃいいのです。単純なルール。だがそこに所持金制限やら拳銃(実弾か空砲かは不明)といった要素が入り込み欲望渦巻く一触即発の空間に。裏切りや談合ありまくりのドロドロ展開ですよ。実は単純なルールだったというのがミソだけど…あの状況下では気付かないよなぁ。強引なオチですが、インパクト大。良かった。
「Interest Game」は株のようなお話。ただ、投資対象は女の子。彼女らのバトルの結果とアピール具合によって評価額が上がり下がりする仕組み。評価額と戦闘力が直結している、筆頭株主になるとその女の子にちょっかいを出したりできる(違)のがポイント。設定は面白いんだけどねー。この場合相手が市場全体なので駆け引きとか裏切りとかそういった展開とは無縁だったのが難。主人公の経営が順調すぎたのと、一応いるライバルがヘタレすぎたのがそれに拍車をかける。堅実に資産を積み上げたがバブルが崩壊して元に戻ったという表現で事足りてしまうよ…。


ゲームは続く。と締めくくられていますが、続編は出るのでしょうか。タイトルとオチから察するに、多分本筋は「Interest Game」の方だとは思うのだけど、これで続編を書いて面白くなるかは未知数。少なくとも今回は「Interest Game」は面白くなかった…んで逆に気になるが。バベルの永劫回帰ってことからタイトル付けたならばこんな終わり方でも良いとは思うのだけど。

4840240728ツァラトゥストラへの階段 (電撃文庫 と 8-4)
土橋 真二郎
メディアワークス 2007-11