「リバース・ブラッド1」

「以前、先生がこんなことを言っていたわ……『宇宙とは決定論か否か』って」
「けってーろんてき……?」
「うーん、難しい言葉だったかな?簡単に言うとね、この世で起こるいろんな出来事はあらかじめ決定されているのか、それともまったく予測できないものなのか、どっちだろうってことよ。君はどちらだと思う?」
「決定されてるって、台本みたいなものがあってその通りにしてるってこと?」
「あはは、台本は良いわね。……そうね、案外ピッタリな表現かもしれない。でもその台本は誰も読むことができないの。読めないけれど、誰が書いたものなのかさえもわからないけれど……でも台本は存在していて、私たちは普段、意識することなくそこに書かれたまま行動している……」
「誰も読めないのなら、意味ないじゃない」
「んー、そう言ってしまえばそこまでなんだけれど。でも、もし……私がここで君と出逢ったことも、たんなる偶然じゃなくて何か意味があるのだと考えてみるなら――それはちょっぴり素敵なことじゃない?」


あらすじ

とある研究所での爆発事故に巻き込まれた鴫沢巽。彼はその事故以来、以前の記憶を失い、かつ触れた物の記憶を感じ取れるという不思議な【能力】の発露に悩まされていた。
ある雨の降る夕方。下校途中に美術室の異常に気がついた巽は、そこから現れた少女に突然右腕を切断され、激痛に呑まれて気を失ってしまう。気がつくと、そこは見知らぬ洋館。そこは巽の右腕を切断した少女―葛城呉羽の家だった。混乱する巽に彼女は語る、彼女の父親の所業によって生じた異形の【能力】の存在を。そしてそれは巽にも無関係の事ではなくて―


作風とお話があっていない…ような

タイトルと表紙から連想されるお話と実際の内容とのギャップが面白かった『みすてぃっく・あい』の人の新シリーズ。ガガガ文庫で同作者2つ目のシリーズってのは初(1冊目は単発だけどな)なので結構期待されてる?


『みすてぃっく・あい』を読んだ時は、「割と上手い人だなー」と思ってたのですが、今作を読んでその考えを改めた。「上手い人」ではなく「特徴ある(特化した)内容を書く人」なのだと。
公式のあらすじを見る分には、前作同様ややミステリ・衒学風味な物語に思えるかもしれない。だが、その実態はラノベの王道、所謂『学園異能』モノであった。私は前作を読んで、その不可思議かつ計算された作風を面白いと思い、それを期待して今作を読んだ。計算された変化球のような作者の作風と直球ド真ん中な今回のジャンル。この二つが融合した時どうなってしまうのか?…結論としては作者らしさは上々、だけど完成度は前作に一歩譲る、みたいな。
お話自体が面白いかと言われるとそれもまた微妙〜なのですが、完結していないしそれはあまり問題ではなくて。発動する異能!ヒロインとの恋愛模様!強敵とのバトル!といった学園異能の定番要素を(とりあえず)抑えつつもミステリ・衒学風味な展開に仕上げているのは面目約如といったところか。非常にきっちりしている伏線の設置・回収手腕も健在。問題はそれ以外の場所が弱いこと。本筋と直接は関係無い所…コメディパートとか。あと、かなり理論的に物語を進めていくタイプなので感情描写も弱いかもしらん。得意と思われる場所とそうでない場所の温度差が微妙に引っかかる感じがした。エロイ場面とか(好きだけどこの場合は)いらんよ?ミステリ・衒学成分を期待して読むとヒロイン周りの描写で引っかかり、学園異能を期待して読むとその逆に。どうにも日常描写と非日常描写に断絶があるのだよなぁ。その辺り「特化した」書き手と思った次第。作者が望んでこのジャンルを書いてるのなら問題は無いのですが、先にジャンル縛りとか「お題」があった場合、それはどうなのかと。っつーか先にメイドさんお仕置き企画を書けと小一時間r

4094510435リバース・ブラッド 1 (ガガガ文庫 い 3-2)
一柳 凪
小学館 2007-12-19