「ほうかご百物語」
「昨夜、会ってませんか、美術室で。――で、その時、僕と何か約束しませんでしたか」
「……、イタチだよ。良かった、忘れられたかと思った」
「ってそんなことより!」
「な、何?」
「あ、ごめん。今のは自分に突っ込んだだけだから。それより、いったい何でまた」
「何で……って。約束したよね?また、あなたの前に現れて、絵の『もでる』になる、って。……あ。あの、もしかして、忘れ」
「忘れるもんか。たとえ世界の全てを忘れても、僕はあなたを覚えています!」
「……そ、そう。それはどうもありがとう」
あらすじ
高校生で美術部員の真一は、夜の学校に忘れ物を取りにきていた。しかし、そこで彼は怪異に遭遇する。誰もいないはずの夜の学校に響く少女の声「いきなりで悪いけど、あなたの血、吸ってもいいかな」
だが、彼は妖怪に詳しい先輩の言葉を思い出しその場をしのぐことに成功する。彼女の正体はイタチで、正体を見破られた妖怪は大人しく退散しなければならないのだ。大人しく退散しようとするイタチさん。けど彼(美術マニア)は凛とした彼女の容姿に心底惚れてしまっていて―彼女と『いつの日にか絵のモデルになって欲しい』という約束をしてしまった。いつになるかはわからないけど、それまでに彼女を描くに相応しい技術を身につけようと決意を秘めながら。
だが、翌日早々にイタチさんは美術部に出没。どうやら約束を果たす時まで彼のことを守ってくれるようだ…って何からさ?だが、時を同じくして学校内で不可思議な現象が起り始めて―
大賞の感想かよと小一時間問い詰められたい
第14回電撃小説大賞・大賞受賞作。新人さん。第14回受賞作品群では読むのが最後になったのだけれど、大賞ということで期待していた程ではなかった。
そして、なんか酷評が多いようだ。だが、読んでてそれなりに楽しめたし、言うほど酷いってことはないと思う。会話分が続く所で誰が喋ってんのかわからなくなる所はあったけどな!妖怪をネタにした連作式のお話で薀蓄方面、萌え方面、コメディ方面とバランスが良く安心して読める作品。だが残念かな、安定はしているが新人ならではの勢いが感じられないとでもいいますか。正直『君のための物語』や『藤堂家はカミガカリ』の方が読み終わって、何かしら心に残る物があったと思う。でも、仮にその二つが大賞であったとしても何かしら違和感があるような、ないような?
ちなみに過去5回の大賞作品は
第9回 | キーリ 死者たちは荒野に眠る | 壁井ユカコ |
第10回 | 塩の街 Wish on my precious | 有川浩 |
第11回 | ルカ―楽園の囚われ人たち― | 七飯宏隆 |
第12回 | お留守バンシー | 小河正岳 |
第13回 | ミミズクと夜の王 | 紅玉いづき |
…ルカが未読だったりキーリは全部は読んでなかったりしますが、総じて中高校生向けの完成度が高いお話が選ばれるのかなぁと思った。ミミズクはやっぱり色々と異端ですな。『君のための物語』が完成度という点では大賞向きかな、と思う反面、内容が落ち着きすぎてることを考えると今回の結果は順当なのかもしれない。話題性やデキの良さはともかく、最大手の新人賞の大賞としては、正しい内容のかな。ほら玄人の好みそうなのって局地的には影響強いけど、全体として見るとそうでもなかったりするし。
…ああ新井輝でかつ見た目が朝倉さん(優等生モード)は問答無用で笑ったw
■感想リンク■
ほうかご百物語 (電撃文庫 み 12-1) 峰守 ひろかず 京極 しん メディアワークス 2008-02-10 |