「樹海人魚2」

「あたし、雪むすめの気持ちなんて、やっぱりわからないよ」
でも、と菜々の声が小さくなる。
「溶けてしまってもいいと思う温もりとか、あるみたい……」
「そんなのない」
「あるよ。この胸の内で、ずっと、消えることなく灯り続けている。あたしには消すこともできるよ。でもこのままでいい。どうせいつか溶けるなら、この熱で溶けて消えたい」


「ザネ、あたしのこと扱えるの?」


あらすじ

強大な力で街を破壊し、人々を殺し、何度死んでも蘇る恐怖の存在―"人魚"。人間はその怪物を飼い慣らし、"歌い手"と呼んで同類退治の道具としていた。不老不死の人魚達にとってはこの世は出口の無い迷宮のような物である。それに倦んだ彼女らは飼い慣らされることと引き換えに、恩赦として平穏な来世を望むのだ。<最初の6人>と呼ばれる強力な人魚の一人・酸月との戦いから一月が過ぎた。先の戦いでの被害は甚大であり、今の月型群には動ける"歌い手"も"指揮者"も数える程しかいなく、酸月の遺した人魚への対処で手一杯の状況。そんな折、別の<最初の6人>である『女帝』傘下の人魚・恐怖の街『彷徨市』が月型群へ襲来する。酸月戦での功労者である指揮者(兼歌い手)の森実ミツオは恩赦で戦線離脱。強力な歌い手『絶対零度のバービードール』と呼ばれる雪下菜々も何故か回りに歩調を合わせようとせず―


とりあえず突っ込んどきましょw

「さて今回はどのくらい突っ走ってるのかしら?」と毎回読む前に思う中村九郎せんせの新刊。
まぁ、前巻と同じくらいの難易度かなぁと感じた。独特な台詞回しは相変わらずだけど、極端に突飛な所もないので、より優しくなってるかも。なんか説明台詞多いし、ストーリーも流れは把握しやすいので中村九郎入門にもお勧めだね!
……って何か引っかかるんですが。前巻?ってこれ2巻だな、2って書いてるからあたりまえだが…ってぇぇぇぇぇぇぇ
九郎せんせ初2巻です!冊数はそう多くないものの、割と色々な場所で書いてて(だからか?)2巻目がなかったのが驚きというか、2巻目が出ただけでそこに突っ込まれるのが驚きというか。愛されてるなぁ。


そして本編。
面白かった、感動した、と書くと不正解で。
堪能した、うちのめされた、と書くのが正しい。
ストーリーも悪くはないのだけれど、そこが魅力とは言い難く。やはりこの作家の強みってのは、独特の表現方法と文体にあるわけで。まず、初期の作品ほど難解、奇怪ではないながらも変わらないキレを保ち続ける展開を堪能。かつ多分に詩的で作品に合っていながらも、相変わらずの奇想としか思えないイメージの鮮烈な描写に圧倒されたのでした、と。
A→B→C→Dで会話を繋げて行くところをA→Dで強引に成立させ、かつ何かを含ませているようなぶっ飛んだ展開の会話。どう考えても絵空事なのだが、実際にそれを作中に登場させ動かしちゃう。まさに詩的視的バトル&ラブと呼ぶに相応しい作品。ポエミー考えるんじゃない、感じるんだ、的な?
…ああ、ミツオを巡る菜々と霙の三角関係も見所かね。2巻は菜々メインだし、ツンデレだし、で霙が不憫な気もしますが…でも自分は霙派ですよっ。『永遠の早摘みの果実』と評される軍人言葉の女の子って破壊力高すぎ。

4094510575樹海人魚 2 (ガガガ文庫 な 1-2)
中村 九郎 羽戸 らみ
小学館 2008-03-19