「嘘つきは妹にしておく」

「終わりが近づくと、悲しくなるの。また、幸せな夢が終わってしまう。幕がおりたら、また私は、ひとりぼっちのどこでもない世界へ帰らなきゃいけない。舞台が終わると、夜か夕暮れで、劇場を出ると、涙が出るの。どうして、終わっちゃうんだろう。終わるくらいなら、このまま消えて、永遠になるほうがいいかも、って」
「だから……だから、私は……っ……」


あらすじ

ある日、高校2年のヨシユキの鞄に見覚えの無い物が入っていた。それは、ほとんどのページが真っ白なおかしな本。
なにか呪われたりしそうで、ただ捨てるのも躊躇われたので、ヨシユキは1年の頃に使ってた教室で誰か他人の机に本を入れてしまうことを考えた。そしていざ本を処分しようとした時、学校内なのに私服の見知らぬ少女が現れる。

「いきなりだけど私、現実じゃないのね……一番近い言葉で言うと、本の妖精かな」

面食らったヨシユキだが、一応話を聞いてみることに。どうやら真っ白の本は物語の一部分で、誰かが物語を壊してあっちこっちにばら撒いた物の一つらしい。そして、本の妖精である彼女は物語が完全に壊れるとその存在も失われてしまう…
丁度夏休み直前で時間もあったヨシユキは、彼女と共に物語の断片を探すことになるのだが―


終わっていく物など無いと思った

今の所3作目の『侵略する少女と嘘の庭』まで出ている「嘘」シリーズ1作目。
取り立てて面白い…わけでもなく、感動した…わけでもなく。だけど読後感は何故だか悪くない、そんな感じ。お話の流れよりも雰囲気、空気で魅せる作品か。単純に、お話の内容だけならば作中の演劇の方が個人的にはよっぽど好きかもしれないな。
お話の本筋である物語の断片集めの進行具合が予定調和的に「あるべき所に収まる」感じで切迫した状況のわりに緊張感が皆無なのが原因かも。盛り上がらないのよ、基本的に。あと、主人公と『妹』は流石に描写十分だったが、他の面子の描写が薄いのも気になった。超展開ってことはないんだが、各章の本筋部分の展開がやや唐突に感じることも。これもある意味、予定調和か。1巻読みきりならページ数は仕方ない所ですけどね。
たださ、お話部分は結構どうでもいいと思うのよ。それが主題では無いと思うしね。楽しく遊んだ夏休みの最終日付近とか、学生時代の終了直前の時期とか。楽しかった、けど確実に終わりが来る時期に思い浮かぶ切なさというかそういうのが感じられたのが大変良かった。なんか、しんみりしちゃうよね。大好きな小説を読み終える気持ち、ってのは上手い例えだなぁ。予定調和っぽく感じられた?そうだね、そりゃ結末は決まっているのだから。
伝奇サスペンスちょっと社会派から、まず社会派が抜け落ち、サスペンスが消失し、伝奇がどうでもよくなって行き着いた先がこの不思議なノスタルジー小説らしいです(あとがきより、この名残が作中の演劇に)。不思議ノスタルジーって区分は正しい、実に正しい。過ぎ去った日々を思うと、ちょっといたたまれない気持ちになってしまったり人とかには合うんでないかなぁ。適正時期は8月末な感じ。なんか読んでて奥華子の『ガーネット』が頭に浮かんだ。
4840106746嘘つきは妹にしておく (MF文庫J)
清水 マリコ
メディアファクトリー 2002-11