「黒水村」

「見てぇ、地獄って素敵よね。立花さんもあの本読んで思わなかった?極楽なんかよりも何百倍も楽しそう。何百年をかけても、私は必ずこの村の地獄の釜の蓋を開いてみせる。そして死者をこの世に歩かせるわ。立花さん、ゾンビ映画好き?先生ね、すっごく大好きなの。
あれって夢があるわよね?」


あらすじ

漆黒の森、底知れぬ闇をたたえた深い山。光なき、黒い影に囲まれた山村「庫宇治村」。
単位の足りない生徒のため特別に組まれた課外学習の一環でこの村を訪れた引率の先生と7人の生徒達。到着した彼らを待ち受けていたのはどこもかしこも黒く煤けた建物と老人しかいない寂れた有様だった。勿論電気も通っていないし、携帯電話も通じない。あろうことか普通の電話も村の病院に一つしかないらしい。あまりに酷い村の状況に早速やる気を無くす皆。そんな中、引率の先生からこの村で過ごすにあたっての約束事が皆に伝えられる。

一つ、村や森の植物を傷つけない
二つ、夜間は害獣が出るので外には出るな
三つ、牛小屋には近づくな
四つ、雨が降ったら、「絶対に」外には出るな

どこか奇妙な節のあるこれらの約束事を守りながら、当初の予定である農作業に精を出す生徒達。だが、食あたりか何かで7人の内の1人が体調を崩してしまって―


愛すべきB級ホラー

「くろみずむら」でいいのに何故に「クローズむら」なのかと疑問だったが、ああ、closeで考えると意味が通るのねと読み終わってしばらくして気付く。


今月創刊の一迅社文庫からまずは一つ。文明社会から隔離され閉鎖された山村を舞台にした歪んだ民間伝承怖い敵なホラー物。ホラーは詳しくはないけど結構好きだったりして。
で、密かに期待して読んだところ…微妙?最後まで楽しく読めたものの、怖くはないなぁ…多少グロくはあったけど。
いや一般的に自分がこんな状況下にあったらすげー怖いとは思うのですけど、客観的に見てる分余裕があってホラー的内容が起ること自体を楽しめているような、そんな感じ。B級のホラー映画を酒飲みながら友人と見てるような、デキのいいお化け屋敷を楽しむような。怖いもの見たさなのでしょう。…どう考えてもこの先に何か出てくるんだろうけど「せっかくだから、俺はこの赤の扉を選ぶぜ!」的な。で、実際に出たら出たでスリルを楽しむという。
この作品の場合、そういう「いかにも」な場面や舞台を設定するのは(内容は結構ありがちかもだが)上手かったんでないかな。村の掟とか怪しげな植物とか廃病院とか。「いかにも」怪しすぎて覚悟ができちゃうのが難だが、そこが「手を出したらどうなっちゃうんだろう」的な好奇心を引き起こすのに丁度よい塩梅だったかも。
「本当に怖いのは人間」ということで、人間関係をもうちょっとどうにかして欲しかった所ではあるのだがね。黒幕だってもっと一行を引っ掻き回せた気はするし(カミングアウト早すぎw)、生徒の中に裏切り者とかいると盛り上がったのではないかなぁ。まぁ、「うはーこえー(棒読み)」な感じには面白かった。本当、B級映画の楽しみってのに似てる。


しっかし、この内容だとかまいたちの夜2の底蟲村編思い出してしまうなぁ。主にアカモロ。

4758040060黒水村 (一迅社文庫 く 1-1)
黒 史郎
一迅社 2008-05-20