「リバース・ブラッド2」

「甘いもの、好きなんだ?」
「甘いもの……?そんな言葉でひと括りにしないでほしいわね。バウムクーヘン神聖な食べ物なのよ」
「不可侵、なんだ……」
「完璧な円形に保たれた形状と、幾重にも幾重にも緻密に重なった生地の層。もはやデザートといった域を超えて、一種の芸術品と呼んでもいいくらいだわ。皿のうえに盛りつけられた料理には世界像が表象されているという説があるけれど、まさにその通りね……何度見ても溜息が出る……」


あらすじ

葛城呉羽―フトした偶然から出会った、物体を切断・癒着させる能力<解剖書記>を使う少女。彼女の父・忌久の心臓<五重心臓>の影響を受けた人間は【触能】と呼ばれる様々な能力を発露するらしい。忌久自身は先月起きた爆発事故で亡くなったそうだが、彼の弟の悠久が<五重心臓>を奪い去り、何事かを企んでいるようだ。鴫沢巽は偶然その爆発事故に巻き込まれた結果、以前の記憶を失い、かつ触れた物の記憶を感じ取れるという不思議な能力<独白する夢魔>が使えるようになっていた。紆余曲折を経て悠久の行方を追う呉羽を手伝うことにする巽。だが悠久の行方は依然としてわからないままであった。
人が消える―そんな噂が流れる昨今、幼馴染のあざみの親友・千夜も謎の失踪を遂げる。人づてに聞くところによると、どうやら彼女はある画家から絵を習っていたらしい。そしてその画家自身が行方不明で、謎の失踪事件はそれから頻発しているようだ。手がかりを求めて、例の画家の息子・棗の屋敷に向かう一行。だが、その屋敷は現実と見まがう無数の騙し絵に埋め尽くされた奇妙な館で―


オチは良かったんだけどねー

『みすてぃっく・あい』の作者の2シリーズ目の2冊目。
衒学やら時折出てくる太字キーワードやら、特徴的な所は健在。なんだけど、多少物足りなかったかなー感があったり。「トランプの役人は死刑を執行」とか「魔術的小説」とか落ちてくる無頭の死体とか、あらすじ等で煽り過ぎなのが一因かも。単体で見ると面白い部品が多かったので、前作前々作の要領で如何に目眩むような物語になるのかと期待していたのだが、実際の本編は意外に地味に感じた。
いや、部分部分で見るとキテる表現とかは散見されたのだけど、お話全体として考えると効果的に余韻を残せてないかなぁと。揺さぶりとかフェイクがその場その場で終わってしまっていて、色々あるのだけど終わってみると意外に平坦な印象。いや、キーワード自体は全部お話に盛り込まれているよ?ただ無機質に配置し過ぎなだけで。例えば無頭の身体。結果としてそうはなる。だが、その存在自体がお話の根幹に影響を与えていない。例えば真犯人の『能力』。伏線は張ってるんで問題ないっちゃないのではあるが、それでも伏線自体が唐突に過ぎると思ったし、その万能感はなんなのか。そこで無理に異能バトルいれなくてもいいだろうにと。
犯人は誰かというオチは良かったと思うのだけど。結論的には素直過ぎるのでどうかなぁ…と思ったりもしましたが、ある物を変えずに見方を変えると違う物が見えるってのは非常に今回のテーマである「騙し絵」的で心憎い。「絵画と現実は同等だ」って、それが答えではないですかwww。
なんというか、伏線回収とかは相変わらずしっかりしてると思うのだ…それが上手いかはさておいて。予め決まった要素、オチとその伏線を仕込んで結果的にお話が硬くなってしまったかなぁとも思う。本命のオチだけしっかりしてれば、残りは結構ノリで書いてもいいと思いますけどねっ。
次は夏休み編ということでまったり展開らしいです。コメディやらエロ要素が増大って所でしょうが、作者の性格的にそう素直にまったり展開のみで一冊を終えるとは思えないので、逆にどうくるのか興味深いですな。
4094510680リバース・ブラッド 2 (ガガガ文庫 い 3-3)
ヤス
小学館 2008-05-21