「円環少女(8)裏切りの天秤」

「鴉木さん、なんか今日は、変だよね」
「……そう?」
「鴉木さんって、もっと、あとさき考えな……いや、思い切りよかったよ。らしくないって言うか……もっと、ハダカになってぶつかっていいんじゃないかな」


「……………私、ひょっとして『ハダカ』って言った?」
「そんなにハダカがくせになったの?」
「くせとかじゃないよ!みんな、素直になったほうがいいとか、そんな感じのことだよ。私、いいこと言ったよ?」
「そうなのよ!ごほうび、このままハダカにひんむいて、そこの窓から逆さ吊りにしたげたいくらい、よく言ったわ!」
「……鴉木さん、ものすごく目が恐いよ?」
「ぶつかっても何をしてでも、ほしいものは手に入れなきゃダメなんだわ。……あたし、なにかんちがいしてたのかしら?本当に、いつの間にか甘えてたんだわ」
「大事なのは、ハダカのあたしが、どこまでやったげられるかってことよ。恋って、そういうことだと思うの」


あらすじ

仁が《公館》を離れることで得た平穏な日々は突然終わりを告げた。
賢者の石を手に入れるため、神音大系の聖騎士将軍《至高の人》アンゼロッタ・ユーディナが日本に降り立ったのだ。彼女は賢者の石発見の鍵を握る再演大系の少女・倉本きずなの奪取を命じる。日本警察との協力体制を敷き、きずなの防衛にあたる《公館》。だが《協会》の後ろ盾を失った《公館》は圧倒的な組織力を背景に白昼堂々と進行する聖騎士部隊に敗退を余儀なくされる。そんな中、仁は己の誓いを守るため何の後ろ盾もないまま死地へと赴くのだが―


社会と個人

変態祭りを間に挟んで本編再始動のシリーズ8巻目。
無駄に濃い描写も相変わらずで。なにより毎回毎回強さのインフレ起こしそうな敵を出したり、これ以下は無いっつーような状況を惜しげもなく使いつつも更なる地獄を魅せてくれるのは素直に凄い。ただ、7巻ほど「ちょwwwwwwおまwwwwww」と思えたわけではないし(今回どシリアスなのでこれは当たり前ですけどっ)6巻ラスト近辺ほど心が震えたわけでもないので、こんなものかなぁと思えたりもした。今回一区切りついてるとはいえ、アンゼロッタとは決着ついてませんしね。次回も出てくるのであろう、きっと。
で、今回微妙に強調されてたりで、気になったのが「個人と社会」って奴ですか。「個人と組織」でもいいのだけど。正直、今回の仁は泥沼の5連敗で非常に危うかった…途中で死んでしまってもおかしくないくらいには。確かに途中できずなとの仲が険悪になったりしたとはいえ、仁自体はよく動けているのですよ。ヘタレてるようには見えても、(目先だけでの考えでも)思いはブレてないし然程6巻ラスト時点から比べて弱くなっているとは思えない。でも泥沼の5連敗。その辺り、やはり集団の強さってのを再認識。思えば、ほぼ完全無欠のグレンも用意周到な国城田も個人で、王手直前まで行きながら最終的には敗れてしまっていた。そしてその頃の仁は所属している場所があって。善でも悪でもそうなら…個人からしてみると中々に容赦ない話だと思う。

「せんせって、いっつも数とか"社会"とか気にしてるのね。でも、ひとりの魔法使いの意思は、世界ときっかり同じだけ重いの。ひとりの魔法使いが、たった一発の魔法で世界を滅ぼすことだってあるんだもの」

でも、ああいった形で両者とも失わず決着をつけたのには幾許かの救いがあったと思うのですよ。
まさに、「この世界は地獄じゃない」

4044267103円環少女 (8)裏切りの天秤 (角川スニーカー文庫 153-10)
長谷 敏司
角川グループパブリッシング 2008-06-01