「アカイロ/ロマンス 少女の鞘、少女の刃」

「私、人間が好きだよ」
「でも、大嫌い。人間なんて大っ嫌い。私はみんなに好かれたくて頑張ってるのに。明るく振る舞ってみんなを笑顔にさせたいって思って無理してるのに……私が違うってわかった途端、掌を返して拒絶するんだ。ねえ、どうして駄目なの?あんなに頑張ったのに、どうして?そのくせにあんな……暗くて内気で、周りに打ち解ける努力もしようとしないような娘の方が大事なの?同じ人間だから?許せない。許せないよね、そんなの」
「中学の時、塾で知り合ったんだ。すぐ仲良くなって、大好きになった。取り繕ってるだけの私と違って本当に明るくて元気で、一緒にいるだけで楽しくなれた。けーくんも知ってるでしょ?だってこの『けーくん』って呼び方、あの娘も使ってたもんね」


「ごめんね。ひとつだけ、嘘、ついてた。私……喪着、もう済ませてるんだ」


あらすじ

高校生1年の霧沢景介は同級生の灰原吉乃を何かと気にかけていた。
それというのも、同じ中学出身だった彼らには近しい人が『失踪』してしまったという共通点があったためだ。だが、意外に人付き合いの良い霧沢と違って、灰原は大人しい性格もあってかクラス内では孤立することが多かった。そんな灰原を見かねて、霧沢は仲の良いグループと一緒に灰原を遊びに誘うことにする。当の灰原はすぐには承諾しなかったものの、誘われてまんざらでもない様子。返事は後日ということで携帯のアドレスを交換した二人はそれぞれ学校からの帰路についた…はずだった。霧沢が家の前についた瞬間、携帯に灰原からの着信。どうやら彼女はまだ学校に残っていて、あろうことか複数の生徒から陰湿ないじめを受けているようで―


さすがに電撃の黒い太陽は格が違った

レジンキャストミルク』等の"電撃の黒い太陽"こと藤原祐の待望の新作。
絵師の椋本さんとのゴールデンコンビ、巻頭のフルカラー漫画もあってまずは一安心。椋本さんのイラストはやはりいいものです。
内容的には、和風伝奇風学園異能か?いきなり衝撃の展開でつかみはおk。アカイロ⇒アカイイト(これも和風伝奇だな…)を連想した自分としては、美少女二人が絡み合う表紙のせいもあってか「今回は百合か、百合がくるのか!」と思っていた時期もありました。や、件の一族には男が極端に生まれづらいとかそういう設定もありましたしね。なんたって/ロマンスですから、百合もありかなぁと。そして、実際に読んでみてしてやられた。灰原は確かに引っ込み思案かもしれませんけど、ふわふわしてて可愛いのですよ。なんか枯葉さんって人もいるけど、こっちがヒロイン候補か…と思ってた矢先にあの展開。1巻の更に序盤でここまでやるのか。電撃の黒い太陽は容赦ねぇ。…このインパクト!溢れるドラマチカ!。もうね、冒頭の漫画でもこれを巧妙に隠しているのがまた心憎い。「枯葉さんもセーラー服着るんだ…微妙に合ってない気もするけど、まぁそんな展開もあるだろ」ってその違和感にもっと疑いをもって!読む前の自分!ってな感じですよ。
で、その一点は確実にもってかれたわけですが、他の場所は意外に地味というか手堅い気も。前作だと結構「人死に」ってのは最終手段的に使われていた感じですが、今回はその辺りは容赦しない。シチュェーション的にも精神的にも相当エグイと客観的に見ると思えるシーンが多くなってると思うのだけど、読んでる分には"そんなに"重々しくは感じない。寧ろやってることは…なのにちょっと良い話にも思える不思議。思うに、前作と比較して「悪意」が足りないんじゃないかなぁと。これは長所短所両方あるだろうけど、この路線でお話を続けていくのは結構難しいのではないか。今回の敵役…歪んで歪んで潰れてああなってしまった彼女。、酷い行動をしつつもギリギリ踏みとどまっている際どいバランスは、単純な悪役に納まらず良かったと思う。…あの展開と比べると如何せん地味な気はするが。
1巻だからこの程度でまだ収まっているのか、それとも最初っからこんな雰囲気を狙った作品なのか。どう展開していくかが非常に気になる作品ではある。


…あんま「ほのぼの」パートない作品ですが私は棺奈さんの言動がその役割を担っているのに一票ですよ。

4048671847アカイロ/ロマンス―少女の鞘、少女の刃 (電撃文庫 ふ 7-16)
藤原 祐
アスキー・メディアワークス 2008-08-10