「静野さんとこの蒼緋」

「ちょ、ちょっと、お兄ちゃん、どうしたの?ねえ、お兄ちゃん」
「お兄ちゃん、どうしてこんなところ連れてくるの?手痛い、痛いよ、そんなに引っ張らないで。痛い、痛い、痛いの、だから、痛いってば!!」


この馬鹿!さっきから痛いって言ってるじゃない。何なのよ、全く!!」


あらすじ

「お前に紹介したい人がいる」

父に話を切り出され、蒼介が出会ったのは一人の少女。記憶にはは全く無いが、彼女・緋美子は蒼介の双子の妹、だそうだ。なし崩し的に同居することになり、勝気で生意気な彼女の態度に終始やられっぱなしの蒼介。愛しの高原さんがいる学校だけが安住の地かと思っていたらついには、同じ学校にまで通いだす始末。そんな折、学校では意識を失って倒れる生徒が続出するという不可解な事件が起こり始めていて−


悪くはないのだけど

君のための物語』の作者の2作目。大人しかった前作と比べると、かなり作風が違ってる感じ。表紙が白背景にヒロインのピンというラノベの王道だったりするし、事前情報をタイトルのみで書店に行ったら一瞬"水鏡希人の2作目"と認識できなかったりw
前作はかなりお気に入りだったので今作にも期待はしていたのだけど、読み終えてみると…普通かなぁ。
多少回りくどい書き方もあった気がするけど、筆力はある方だと思うんだ。内容が面白いかは置いておいて構成も堅実だったし。蒼介の急に妹ができた混乱や葛藤、一見勝気で我侭な緋美子の心情の機微等、双子間の心の交流は丁寧な会話分を通して良く描けていると思った。その辺りは金賞作家の面目約如かね。ちょっといい話万歳。
ただ、舞台設定はいいとしても、今回のジャンルと(自分が)面白かった所がちょっと乖離しているのが気にかかった。いや、押しかけ妹で「お兄ちゃん♥」連発とか実は素直になれないとかは大いに結構なのだがね。これが正しいらしい「ドタバタ学園コメディ」として面白かったかと問われると微妙。はっちゃけた展開があればいいとか、とにかく笑えればいいって物でもないとは思うが、地が上品なせいか全体的に勢いが足りないと思えた。じゃあ、「学園異能」として見ればどうなのよ?と考えると…あのオチと展開でそれはないかなぁ…とも。前作でも思ったが、バトル要素は正直蛇足。そんなにライトノベルってことを意識しないで、手堅くお話を進行してくれた方が合ってると思った次第です。
あからさまに伏線を張ってたわけではないのでこれで完結ってのもアリはアリかとも思うが、続きは出るのだろうか。出るなら科学部の描写をもう少し多目にして欲しい所。キワモノが多い割には描写あっさり目だったと思うので。うまく使えばコメディとしても盛り上がると思うのだけどなー。
4048674803静野さんとこの蒼緋(ふたご) (電撃文庫)
水鏡 希人
アスキーメディアワークス 2009-01-07