「とある飛空士への恋歌」

「ありがと、お父さん」
「…………」
「絶対、帰るから。空の果てを見つけて。立派な飛空士になって」
「……おう」


あらすじ

バレステロス皇国の第一皇子「だった」少年カール・ラ・イール。彼は幼い頃、「風呼びの少女」ニナ・ヴィエントを旗印とした革命によって、住む所も最愛の両親をも失ってしまう。だが、彼だけは母親のたっての願いと、まだ幼い子供ということもあって存命を黙認されることになる。
市井に身を隠して数年後。飛空機械整備工の息子、カルエル・アルバスとして学業に勤める彼の元に黒服の使者が訪れる。革命後に樹立された共和制も政治の腐敗によって破綻しかけ王政復古が望まれる昨今、既に死んだはずの先王の血筋であるカルエルはどこの政治的勢力からも望まれない存在であったのだ。他の勢力に利用されるより早くどこかに身を隠して欲しい―そう望む先方が出した条件は空飛ぶ島「イスラ」に乗って「世界の果て」を探す旅に同行せよということだった。今まで育ててくれたアルバス家に迷惑をかけないために、唯一残された夢である飛空士になるために、イスラに搭乗することを決めるカルエル。だが、イスラには最愛の母親の仇である憎きニナが管区長として就任することになっていて―


ヘタレマザコンナルシスト成長物語

昨年話題になった『とある飛空士への追憶』の続編…かと思ったら同じ世界設定での違う時代のお話でした。たしかに前作の結末はとても綺麗で…ぶっちゃけ続きは蛇足になりかねないかなぁ、とも思っていたのでこういう形での続編?で少し安心したかも。
作風は結構変わってると思う。導入部分ってのもあるかもしれないが、前作より若干馴染みやすいような感じがある。まず空戦が無い(これは今後増えるでしょうが)、主人公の言動の違い等等。コメディっぽい会話も増えてるな。特に主人公の違いが顕著で前作・基本ストイック⇒今回・ヘタレマザコンナルシストと落差が凄い。完成した青年と未完成の少年と言いかえれるのかもしれない。正直カルエル君の言動を見てると将来が不安になるんですけど…ある程度長い物語なら未完成の主人公でいいのかもね。成長物語的な側面で。
そして、盛り上がる場面を書くのが上手いのは相変わらず。展開自体はベタといえばベタな展開なんだけど、場面場面でしっかり起伏つけてくるなぁと。母親との別離のシーン然り、アルバスさんとの別れのシーン然り。…勿論、お姉ちゃんsとのキャッキャウフフなシーンもな!1巻は特に主人公の生い立ちからやってるわけで、事態が動かず冗長に感じる所をその辺りかなり救われてる感じがしました。
で、そんな1巻通して最も印象に残ったシーンは…やっぱり三章のアレになるんですかねぇ、悔しいけど。章タイトルからして一・二章共に主人公の名前を冠していただけに、いきなり別人がタイトル張るとは何かしら爆弾抱えているのは予想してましたけど。予想してたけど「いや、それは無いだろwww」と捨て去ってた結論…まさかの本人光臨とはw 今後どーすんだカルエル君。


これだけ前作を意識するタイトルをつけるってことは嫌でもどこかで比較してしまうわけで。更に上のレベルに達しているのか、もしくは失速してしまっているのか。2作目大変だねぇ…と思いつつ最後まで読んだ感想は「つかみはおk」で一つ。…うん、無難だ無難過ぎる。でも1巻で続編前提だし、まだ、結論は何ともね?
あ、あとがき無かったのは素直にちょっと残念でした。折込チラシ見ないとバックグラウンドみたいなのわからないのな…

4094511210とある飛空士への恋歌 (ガガガ文庫)
森沢 晴行
小学館 2009-02-19