「HURTLESS/HURTFUL」

「秘密にしておきたかったのに」
「あのときの気持ち……きれいだと思った気持ちがとても好きだったのに」
「でも言いたいの。いま言って、玲夫くんまで傷つけたいの――いい?」


あらすじ

街中玲夫、16歳高校生。彼とその家族は今やちょっとした有名人になってしまっていた。彼の兄・ゆずるが人助けをして線路に落ち、助けた人の代わりに自身が意識不明になってしまった美談がマスコミによって周囲に知れ渡ってしまったためだ。兄が回復する気配も無く、学校でも時折周囲からやっかみを受ける…そんな毎日に玲夫は疲れを覚えていた。
そんなある日、玲夫は一人の不思議な少女と出会う。「ゆずるの心の中から脱獄してきた」というその少女は、兄を目覚めさせるには『鍵』が必要だと語る。兄が以前にも人助けをしたことがあるという情報を得た玲夫は、『鍵』の手掛かりを見つけるため幼馴染の蓉も一緒に疎遠だった兄の過去を探ろうとするのだが―


いつも通り

『嘘』シリーズの清水マリコMF文庫Jでは3年ぶりの新作。
タイトルも、絵師もがらっと変化。けど中身は今までの作品の雰囲気と大差は無かったように感じた。『嘘』はあるっちゃあるがそんな重要なファクターでもないので『嘘』シリーズと全く一緒!…とは断じて言えないが、ちょっとファンタジー要素、なんとなく正体不明の女の子、辺り結構以前の作品と被るような。
雰囲気同じってことは、感想も似た感じで…なんというか、やっぱり「きゅんきゅんする」?恋愛方面だけでなく、作品中の舞台全般に対しても。作品によってまた重きを置く部分がまた変わってはくるのだけど、登場人物の行動を介して「在りし日を懐かしむ」って気持ちが大体しっくりくるような。まぁ「懐かしむ」ってもこんなファンタジー入った状況は実際には絶対に無い。けど、この作者の場合、ファンタジーっぽい要素はあってもあくまで「手段」でメインは「気持ち」の問題であることが多い。なんで、アクセントにはなっても場を乱すってのは少ないような。とにかく、(メイン人物限定で)人を描くのが上手いので、感情移入し易いのが良かった。
特に今回は脱子も蓉も可愛かったとはいえ…主人公の玲夫が地味に素敵。脱子も蓉の双方に惹かれつつもどっちにも手を出せなかったり、級友への反応とか、事実を知るにつれ変化していく兄への想いとか人間臭さがたまらないのです。中々にリアルかも。ぶっちゃけ最後まで大したことはしてなかった気もするが…実際、そんなもんですよね。玲夫あってこその、今回のお話だと思います。…地味なんだがなぁ。
正直、外連味溢れる帯を見てしまうと、意外に堅実な作りであと一押しが欲しい作品ではあると思う。が、雰囲気やら切なさやらは十二分。落ち着いた青春物を欲しているのならお勧め…過去のも含めて。
4840126593HURTLESS/HURTFUL (MF文庫 J し 2-7)
清水 マリコ
メディアファクトリー 2009-02

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