「リビングデッド・ファスナー・ロック」

「わたしはね、葉桜っていうの」
「葉桜?それって、花が散った後の桜のことだろ?お前の親、何考えてんだ?」
「えっ……そうなの?」
「おいおい、そんなことも知らなかったのか」
「でもまあ……」
「次の春が来れば、ちゃんと咲く。だから安心しろって」


あらすじ

霊峰として信仰される神狼山の裾野に位置する地方都市・綾咲市。ここ数ヶ月の間に、綾咲市では若い女性だけが連続して失踪するという奇妙な事件が起きていた。そしてつい先日、事件の3番目の被害者の死体が市内を流れる朱里川の袂で発見される。だが、その死体には異常な点が一つあった。通常人体に付いてるはずのない異物―「ファスナー」が埋め込まれていたのである。
そんな綾咲市の北の外れ、神狼山の山麓と言ってもいい位置に建つ1軒の洋館。今は高校一年生の水祭乙は、幼い頃の記憶が定かではなく物心ついた頃から家政婦の初美と二人きりでその洋館に住んでいた。期末試験も近いある日、乙は晩御飯の材料を買いに出かけた初美がいつになっても戻ってこないことに気付く。おりしも若い女性が失踪する事件が話題になってる昨今、乙は初美を心配して屋敷の外に探しに出掛けるが―


とりあえずエロい

瑞智士記は初めてかな、と思ったら元・木ノ歌詠だったのね。現代伝奇物で中に誰もいな…くなかった話。ややグロ。前回に引き続き何故か今回もあとがきが無かった!最近のガガガ文庫はあとがきが無いのか…って思ってたら公式にあった
喰○関連スレで「主人公がそっくりで武器が太刀+霊獣で白○って確信犯じゃねーか」というのを見かけたので気になって購入。まぁ、そこは外見だけで安心。偶然の一致ですよねー。…ビジュアル的に似てるのは事実だが。
で、現代伝奇物のある意味歪んだお約束として、とりあえずエロかったという印象が強い。エロっても明るくオープンなのでなくて暗く内に篭るような…淫靡、妖艶といった方向でねっとり、じっくり退廃的に。妖艶な家政婦に女医さん、近親相姦(親子丼?)に、主人公が犯されかけるってな展開もあったりするのでさもありなん。けど個人的に一番印象に残ったシーンは「足嘗め」シーンで

「脱がせなさい」
「いいのか……?」
「特別に、ゆるしてあげる」
「お……下ろすぞ……」
「はぁ、はぁ……もっ、もう……限界だっ!」
「焦らないで」
「お嘗めなさい……あたしの"血呑み児"」

ってな具合に、甲の御美足に欲情して下賎な行為に走ってしまう乙。状況的にはもっと危険なシーンが他にあるんですけどね…。甲はいつもは台詞の末尾に「!」を多用するような直情的でさっぱりした性格で、乙の方も普段は枯れた…っつーか真面目で大人しい性格。そんな性格だけに、状況に流されて仕方なく…⇒いつの間にやらノリノリで『お嘗めなさい』その状況の倒錯感とエロスといったら!はじめっから如何にもエロいのもいいが、こういうのもいいなぁ…と思った次第。
…事後に今の行為をからかわれて顔を真っ赤にする甲もそれはそれで可愛かったりするのですけどね。

…けど、普通?

で、エロかったのは当然として、他にも面白そうな要素は沢山あったと思うのです。ジャパニーズホラーを彷彿とさせる果敢無村の伝承とか、『姥皮』のお話と猟奇殺人を絡ませた所とか、冬梧さんの性的に歪んだ心の内とかとか。小ネタ程度の扱いだったけどSNSと村社会の件も小粋だと思う。実際、読んでる間は続きが気になるので特に苦も無く最後まで読み進めることができてました。が、読み終わってみると…「なんか、普通?」ってな感じで。やっぱオチかオチのつけ方が悪かったのか。ラストのスーパーサ○ヤ人的展開は仕方ないとしても、話の流れ的には決着がついてるとしても、ラスボス倒して終了!で終えるには他の要素の比重は軽くなかった気がする。もっと先があるはずだ、と。
と、いうわけでこれは続編是非希望したいなぁ。黒幕の蓮城さん今回はほとんど活躍していなかったし。何より女医さん、スルーされてたが中に誰かいるだろう?
4094511180リビングデッド・ファスナー・ロック (ガガガ文庫)
安倍 吉俊
小学館 2009-02-19