「サクラダリセット CAT, GHOST and REVOLUTION SUNDAY」

「春崎。君には何かが欠けているね」
「何に対して欠けているのですか?」
「人として欠けているんだよ」
「私が欠けているなら、完成した形はどこにあるのですか?」
「完成した形は――そうだね。どこにもないのかもしれない」
「わかりません。私は人間です。それに、完成した人間ならいくらでもいるのではないですか?例えば、貴方も」
「確かに君は人間だ。でも僕が思うに、君は人としての何かが欠落している。例えばリンゴを半分に切っても、それはまだリンゴだろう?そして同時に、全体から見れば半分が欠落している。そういうことだよ」
「同じように、完全にどこも欠けていない人間なんて、この世界にはいないのかもしれない」
「全ての人が欠落しているなら、そもそも欠落した状態が人間としての正しい姿ではないのですか?貴方の定義する人間の方が、過剰に何かを持ちすぎている可能性はないですか?」


あらすじ

能力者が集う街、咲良田。その街で暮らす高校生、春崎美空は「リセット」という、世界を3日分巻き戻すという強力な能力を持っていた。しかしその能力は自らの意思だけで発動させることは不可能で、美空が認めた他の人の指示が必要になる。彼女に「リセット」の指示を出せる現状では唯一の人物・浅井ケイ。彼もまた記憶を保持するという能力を持っていて―かつその能力は彼女の「リセット」の影響を受けないものだった。何か問題が生じた場合、美空の「リセット」を用い3日間をやり直し、その間のケイの記憶を参考にして問題の解決をはかる…彼らの能力は切って離せぬ密接な関係にあった。
高校の「奉仕クラブ」で能力を使って困った事柄の解決にあたる彼らは、ある日「死んだ猫を生き返らせて欲しい」という意見を顧問を通じて受けることになる。さっそくリセットして猫を保護しようとする二人。だが、件の猫は他の誰かが既に保護しているようで―


これが…新人、だと?

グループSNEに所属している新人さんのデビュー作。帯の「乙一絶賛!!」で衝動買い余裕でしたw …帯が太いバージョンなので結構な面積が隠れてしまっているのですが、イラストに惹かれたのも購入理由に挙げられるかも。文章が醸し出す雰囲気とどことなく儚げなイラストの相性がまた絶妙で。
そして、実際に読んでみた感想としては…「うめぇwwww」としか。1本のお話の完成度が新人としてはありえないレベル。全体のグループSNE等に参加してた経歴とかもあって、純粋な新人さんではないのでしょうけど。
高校生の学園異能の皮を被りつつ、やってることはタイムリープが絡んだ若干ミステリ寄りな青春譚。タイムリープ的な性質が濃い「リセット」という能力をトリックや、物語の本筋進行に使っていくことは当たり前といっちゃ当たり前。なのですが、それを全て消化した上で、ベクトルの違う能力(これはこれでかなり反則的に強力なのですが)との異能力バトルに「リセット」を持ち込んで、それでバトルを(少なくとも見かけ上は)成立させている点、序盤から張っていた伏線の消化能力とかその構成力がとにかく素晴らしい。
それだけのことをやっていても、(修飾過多な感じもするが)叙情性に溢れる文章、そして異能それ自体が使い手の過去の経験や現在の思考に大きく影響を受けるという性質を持っている性質等でカバーしていて、無駄に無機質で説明的な文章にはなっていない。とにかくお話の構成と雰囲気という点では落ち度は見受けられなかったと思う。
でも、まぁ、不満というかこうすればもっと良くなったという点はあるわけで。全体的にお話の進行に不必要な部分が削ぎ落とされているので、「上手い」とか「面白い」とか「ケイがラスボスじゃねぇかw」とかは思えても、それ以外の感情の昂ぶりが感じられなかったのはちょっと残念に思う。春崎とケイの関係でも、ケイと昔の女性との関係でも、そして黒幕のお話でも、深い所をじっくりとは語られていないので、どうにもこうにも感情移入しにくい部分はあったのではなかろうか。そのせいか、ケイが無駄に成熟し過ぎに感じられてしまった。
各登場人物のもっと深い所まで丁寧に描いてあれば、もっと良くなったとは思うのだけど1巻だけでそこまで要求するのも酷か。そこを覗けば特に大きな不満も無いので、これは素直にお勧めできる作品だと思う。意外と、一般人にも受けがよいのではないかな…乙一絶賛とか言ってるのは総じてそんな感じのが多いな。2巻までは確定しているらしいのでそちらでお話が補完されるのを期待したい。
4044743010サクラダリセット CAT, GHOST and REVOLUTION SUNDAY (角川スニーカー文庫)
河野 裕
角川書店(角川グループパブリッシング) 2009-05-30