「なれる!SE 2週間でわかる?SE入門」

「気持ちいいでしょ?」


「あんたの作ったネットワークよ」


あらすじ

平凡な社会人一年生、桜坂工兵は厳しい就職活動を経て、とあるシステム開発会社に就職した。SEのことなど何一つしらない彼の教育係についた室見立華は、どう見ても10代にしか見えないスーパーワーカーホリック娘。そんな彼女の元で工兵はOJTの名の下にいきなり実際の仕事を担当することになって―


俺の会社がこんなにブラックなわけがない

葉桜が来た夏』の作者さんの新作で、かなり前作とは内容を変えてきた印象。
まずは題材の選び方が面白い。中高生が主な読者層のライトノベルにおいて、普通に働いているサラリーマンを題材に取り上げている時点で稀少価値。が、それに加えて職種の問題で更にレアに。働いている大人(or学生)を題材にしているラノベは多くないとはいえそれなりにある。が、それらの題材も舞台が共通な事が多い教職、作品背景と絡めやすい自衛隊(or軍隊)、あるいは『経済』やらそんな感じの物を直接扱う作品など、華々しいと言うか「外に広がりを持てる」お仕事が多い。そんな中この作品はSEなんていうシビアでクローズドで、ラノベの一般的な作品とは全く関わりが無いような職種を取り上げている時点で興味が引かれないことがあるだろうか。…作者の職歴と、アスキーと合併したことも刊行に少なからず影響している可能性もあるので、内容共々色々と成り立ちが面白い作品だと思うのです
内容に関して。SEなんて仕事には就いたことがないので、どれだけ現実に即しているかはわからない。けど、違う業種でも新人研修やOJT、雑務は経験しているわけで…それから判断すると間違いなくスルガシステムはブラック企業です、ありがとうございました!まぁ、実際の業務の内容はともかく、現場のキャパを全く考慮しないで仕事をとってくる社長やら、リスクにどう対応していくかということが抜け落ちた依頼元とか(作業量や期限の事を全く無視するなら)異業種でもそもそもありえないので、局地的には大げさに書いてあるような気はします。淡々と作業と期限に追われて仕事に忙殺される状況を書いてもそれはお話としては面白くないので全然アリだとは思うのだけど…本職のSEの人はどんな反応をするのだろうか。
個人的には、コピーの仕事でエラーが積み重なって対処に苦労→更に他の仕事が入って混乱→しかも上司にせっつかれて…で気ばかり焦って憔悴していく様や、設定は完璧なはずなのに起動しない→何回設定を見直しても起動しない→けど期限は迫ってくる…な時の背中に嫌な汗をかくような瞬間が実際に「あるあるw」という感じで経験したことがあるだけに(仕事の内容は全く違うけど)ネットワーク関連の知識がおざなりでも結構感情移入して読むことができて面白かった。SEに限らず、ある程度社会経験がある人が読んだ方がこの作品は楽しめるんじゃなかろうか。貴重な作風の作品だけにある程度決着が付くまではこのお話の続きを読みたいと思う。売れ線ではないのだろうけど…
4048686054なれる!SE―2週間でわかる?SE入門 (電撃文庫)
夏海 公司
アスキーメディアワークス 2010-06-10