「煉獄姫」

「あなたは、しなないの?」
「はい」
「わたしがそばにいても?」
「はい」
「わたしが、さわっても?」
「はい」


「……だったら」
「だったらめいれいするわ、フォグ」
「わたしと……ともだちになって」


あらすじ

異世界【煉獄】。そこに満ちる大気は有害であり、一方で人の意志に干渉して森羅万象へと変化する性質をもっている。瑩国第一王女アルトは、その煉獄へ繋がる扉を身の内に孕む特異体質の持ち主だった。常に毒気を身に纏い近寄る者全てを殺してしまうが故、普段は鬼子として地下牢に幽閉されている。しかし彼女は時折、外の世界へと出る。従者である少年フォグと共に、王家の密命を受けて。煉獄の毒気を練り超常を操る【煉術師】として―


丁寧で安定していたが

レジンキャストミルク』や『アカイロ/ロマンス』の『電撃の黒い太陽』こと藤原祐の新作。今回は純粋なファンタジー物。長編三作目である今作からはイラストレーターが今までずっとタッグを組んでいた椋本さんじゃなくてkaya8さんに変わったけど、表紙もキャッチーで今の所これはこれで合っているのではなかろうか。きちっとしてて毒気が薄い気はしなくもないが…
そして本編の感想。美少女のカラダの奥から醸し出される甘い花の香りが近寄るものを破滅に導く…と書くとえろく見えますね!…とは実際に思ったけど置いておいて、複数のシリーズを円満完結させてきた作家さんだけあってとても安定してた印象。文章が非常に読みやすく(文章量が少なかったり内容が薄いという意味でなく)、世界観の説明から始まって一波乱入れて1冊として丁度良い所で一区切り入れて終わるという構成の上手さ、そして「こういうの好きそうですね!」といいたくなる所はあるけれど土台としてしっかり成立してる用語や世界観は流石の一言。ただ、質もそうだけど内容も「安定」してて1巻のお話の範囲だと「度肝を抜かれた!」みたいなことは無かったように思える
銀髪の美少女がお城の地下牢で監禁生活とか字面にすると大変衝撃的な設定。でも、この作者の場合今までやってきた精神的な欝展開を省みるとそんなに大したことに見えないという…一応従者とかいるし、腫れ物とはいえ王族扱いだし。問題はお話に流れる緊張感の方で、1巻範囲でもちょっとした謎かけと、それに対してある程度の驚きを持った解答があった。だが、アルト&フォグ組が圧倒的過ぎてこのくらいのサプライズでは負ける気がしないのが原因かも。ぶっちゃけアルトとフォグの戦闘能力的にはレジミルよろしく設定上でもかなり上位に位置するのは確定的に明らか、ハラハラする展開があるとしたら本当にラスボスクラスの敵が出てきた時や、二人の関係に変化が生じた時になるのではないだろうか。1巻段階だと幼いながらもガッチリ型に嵌った関係なので、今後アルトが周囲との関わりの中で自分の気持ちに真正面から向きあうようになった時にどうなっていくのか期待。幸い(?)二人の仲を掻き乱すような因子は既に色々登場しているし。


あくまで1巻の起承転結の範囲内だと、主人公組がガチ過ぎて個人的にはそんなに盛り上がらなかったと思う。が、ここはあくまでスタート地点。ラスト付近で不吉な展開を予想させる展開が仕込んであったので2巻以降は更に期待できそう。安定度…というか正統派ラノベ的な完成度は高いので次も楽しみです。

4048687727煉獄姫 (電撃文庫)
藤原 祐 kaya8
アスキーメディアワークス 2010-08-10