「スワロウテイル人工少女販売処」

『彼は数万年単位での人類の存続を希求し、太陽系外にその手がかりを求めました。あるいは微細機械との生存競争に勝利した種を求め、あるいは人類が選択すべき他の現実的解を、あるいは地球における人類が絶滅しようともいずこかでその末裔を復元できる可能性を信じた。彼は無謀ではあれど正しい判断をしたと、私は考えます』
「それなら、あなたは?」
『恋を致しました』


あらすじ

<種のアポトーシス>の蔓延により、関東湾の男女別自治区に隔離された感染者は、人を模して造られた人工妖精(フィギュア)と生活している。その一体である揚羽は、死んだ人工妖精の心を読む力を使い、自警団の曽田陽介と共に連続殺人犯の人工妖精"傘持ち(アンブレラ)"を追っていた。被害者の全員が子宮を持つ男性という不可解な事件は、自治区の存亡を左右する謀略へと進展し、その渦中で揚羽は身に余る決断を迫られるが―


SFとしては微妙?

高度に管理された近未来で、種の存続に関わる病気によって隔離された人工島を舞台に『人工妖精』と呼ばれる人工生命体の愛と存在の葛藤を描くヒューマノイド共生SF。作者は電撃文庫で『θ 11番ホームの妖精』でデビューしてた人でこれで2作目…なんだが、何故にハヤカワJAから出たし。θは読んでないけど評判悪くなかった気がするんだが…
ハヤカワから出版されただけあってSFマインド溢るるガジェット群に彩られた人工美少女と人間の悲喜交交の関係という、その手の人にとってはたまらないテーマのお話で個人的にも非常に好みの部類。SFではない気がするが『観用少女』とか大好きだし!ただ、色々な要素を詰め込みすぎた影響で、話の主題が見えにくくなってたり、説明的な部分が増えてお話が進むテンポが悪く感じられた所は気になった
まず、読んで感じたことは、読み辛さ。1冊完結なのでページ数も結構あるのだが(500P)それ以上に読むのに苦労した感じがする。特に序盤はその傾向が強かった。お話自体は3部構成で 1部:世界設定編 2部:解決編 3部:真相編 な感じで特に1部中盤から2部中盤にかけてが苦痛でした。が、そこさえ超えれば3部は相変わらず説明的な台詞は多いものの事件のバックボーン等が次々と明かされていく展開だったので…もっとプロットを整理してくれればよかったのかな。
次に、要素詰め込みすぎというのは「ヒューマノイド(ロボット)との共生」「種としての停滞」「人工知能の反乱」「ココロとはどこにあるのか」「第三の性」とかある意味それ単体でもSF小説を書くネタを豊富に盛り込んだのはいいのだけど、均等に手を出し過ぎて印象が薄くなっていた現象のこと。名前挙げただけ、ってことはなくてそれぞれの要素はちゃんと入ってるんだ。入ってるのだけど、結構さらっと流されて(流石にヒューマノイドとの共生はメインだが)ギミック(テーマ?)が重要視されるSFというジャンルにおいては微妙に思えた。なので、扱ってる題材はとても好みなのだけど正直「これは凄い!」という気持ちにはならなかった。
だが、揚羽ちゃんは可愛いさはガチでした。揚羽ちゃんマジ光気質…もとい主人公である揚羽ちゃんの独特な境遇の描写は良かったと思うのだ。壊れた人工妖精を始末する『青色機関』のエージェントとして、パートナーを心憎く思っている恋する女の子として、1級の姉妹を持つ等級無しの失敗作の人工妖精として。そんな多面性を持つ複雑な主人公の言動は時として切り替わりが激しすぎるような気もするが、それでもその1点に関しては最初から最後までブレてなかったと思う。一見脳天気で『馬鹿だから』と自分を下に見て自己を確立してた儚い揚羽が本当の意味で自らを肯定するに至るラストは予定調和的ではあったけど、素敵でした

あらすじと表紙に惹かれ(この表紙は素晴らしいね、オーラがあるね!)実際に読んでみたら「微妙…?」と思いつつも最後まで読んだら満足できたという。ただ、この満足感はSFを読んだという満足感よりもラノベを読んだという満足感が強い気がする。陽平との楽しい掛け合いや、名乗り口上を挙げる戦闘シーン等、純粋なラノベ的要素が少なからずあったので、本当にガチなSF期待してると多少面食らうかもしれない。自分はそういうの大好きですがね。
しかし表紙の揚羽のイメージが素晴らしすぎるので、翁草と椛子の公式絵もどこかで見たいものだ…

4150310017スワロウテイル人工少女販売処 (ハヤカワ文庫JA)
籘真 千歳 竹岡 美穂
早川書房 2010-06-30