「戦略拠点32098 楽園」

―マリアにとっては、全ては夢なのかもしれない。
昨日の記憶すらも、この星では夢とかわりない。
風になびいてさやさや囁く草原が、急ぎ足に空を流れる雲がここの法だ。
人の営みに明日を変える力はない。


円環少女』の長谷敏司のデビュー作にして第6回角川スニーカー大賞「金賞」受賞作品。青い空、白い雲、緑の草原。大地に突き立つ幾多の廃宇宙戦艦。―千年におよぶ星間戦争のさなか、敵が必死になって守る謎の惑星『楽園』。部隊でただ一人生き残った降下兵はそこで敵のロボット兵ガダルバと少女マリアに出会う。果たしてこの『楽園』に秘められた真実とは―


ただひたすらに切なく、感傷的な物語。
マリアの無邪気な生活が非常に魅力的に描かれています。その分、中盤以降、謎が知れた後の立ち振る舞いが以前と変わりなくても一々胸に迫る。結局、『楽園』は誰にとっての『楽園』であったのか。登場人物達は各自折り合いをつけて生きていくのですが、大きな歯車の中では個人の力等些細なもの、根本的な問題はそのままなのがまた切ない。
あとがきを含めて200ページ足らず、淡々とした文章のせいもあってボリュームとしては然程多くありません。しかし、読み終えた頃にはこの量で丁度良い、と思えることでしょう。少なくては言葉が足らず、多くては余韻が失われてしまうような気がします。
そして、最後まで読んだ後は、序文だけでも是非再読を。

4044267014戦略拠点32098 楽園
長谷 敏司
角川書店 2001-11