「円環少女(4)よるべなき鉄槌 」

「せんせ、これは何?」
「何って、教育書だけど」
「あたしのことを知りたかったら、本を読むより、お話したりベタベタしたりするの」
「ベタベタはまずいだろ」
「こんな本で満足しようとするなんて、恥ずかしくないの?なに?『思春期の子どもとの付き合いかた』?『思春期に何をしてあげられるか』?『思春期の心とカラダ』?そんなに思春期がスキでたまらないの? この変態!
「そうじゃない!これは、子どものことをもっと知りたいおとなのための本であって、決していかがわしい本じゃあない」
「子どものことを知って何がしたいの?こんなに赤線を引いたり、付箋を貼ったり、せんせはねちっこいのよ。ねちっこく責めたいの?それとも責められたいの?


魔法を『観測』されることで消去されてしまうことから、数多ある魔法世界の住人に『地獄』と呼ばれ蔑まれている世界・地球。故郷の魔法世界で神判を受け、地獄に落とされた『刻印魔導師』は100人の敵対魔導師を狩らなくては元の世界に戻れない。『公館』の専任係官<沈黙>こと武原仁と<円環大系>の使い手鴉木メイゼルが未曾有の戦いに挑む現代を舞台にしたファンタジー。緻密な設定とそれによる魔法の描写が魅力。


5月には5巻も刊行予定ということなので、準備も兼ねて積本の山から1冊。
2〜3巻であれだけ作中で強さのインフレ(敵の)を起こしといて、次巻以降どうするのか不安だったが(あとがきにもあったりw)意外に滞りなくお話が進んでいて安心した。全巻までの最大の敵グレンは確かに詐欺臭い強さではあったもののそれは純粋に己の魔法による物のみであったし、目的も『地獄』からの魔法使いの開放というわかりやすい物であった。それに対し、今回の敵は魔法だけでなく現代の技術も併用してより嫌らしい攻めを展開してくる。目的も魔法使いの解放等ではなく、あくまでも『地獄』での地位、権力と今までと異なっている。双方の立ち位置や戦法の違いにより、今回の敵の強さを印象付けて書かれている点は単純な力押しになってないということで好印象。あと、民間人が戦闘の中心にいる状況もシリーズ初めてではなかろうか(民間人の影響を気にして、ってのは多々あったが)。今までは舞台が隔離されてることが多いため気にしなかったが、観測するだけで魔法を消去する『悪鬼』(民間人)の存在が攻守に及ぼす影響はかなり大きいと思われるので、今後も<沈黙>の魔法消去だけでなくアクセントとして使っていって欲しい所。
お話としては、夏休み、仁の過去の回想(主に妹について)、事件の発端くらいで、割と平和だったので今までほどの盛り上がりは無かったような。一つ、仁の過去の話が出てきたおかげでメイゼルや現在の生活に対する態度の説得性が増したのは良かった。まぁ色々と続いてるので続きを読まないとなんとも。
このシリーズは1から文章が読みづらい(理解しにくい?)のだけれど、今回はどうだったか。ちなみにあとがきでは若干考慮して書いたとされています。実際には、やっぱり魔法絡みの理論が続く戦闘時の会話が読みにくい感がまだあるかなぁ。日常のシーンは今回そんなに気にならなかった。
まぁ元祖サドデレ小学生鴉木メイゼルの歪みきった台詞を楽しむためには関係ないがな!

4044267065円環少女 (4) よるべなき鉄槌
長谷 敏司
角川書店 2006-10-31