「メイド刑事」

「きさま、ただのメイドじゃないな?」
「はい。誰が呼んだか存じませんが、わたくしの通り名は――」
葵は、襟の飾りボタンを外し、開いてかざした。
メイド刑事!」
「さ、桜の代紋……」
「きさま、警察の密偵か?」
「いいえ、そうではございませんわ」
「わたくしの、本当の御主人様は、警察庁長官・海堂俊昭様でございます。この代紋はわたくしへの信頼の証として、御主人様が下さったもの。ですが、今度の一件は、わたくしの一存で探らせていただきました。なぜなら……」
葵は眼鏡を投げ捨て、カチューシャを外して、長い髪を夜風になびかせた。急に声の調子が変わる。
「実の妹よりかわいい紅に道を踏み外させたてめえらが、許せなかったんだよ!」


警察庁長官・海堂俊昭邸付の住み込みメイド、若槻葵17歳。しかしてその実体は悪を憎み、正義を貫くメイド刑事(デカ)!眼鏡の奥に隠された正義の魂が燃え上がるとき、重合金製のクイックルワイパーが唸りをあげる。「悪党ども、冥土(メイド)が待ってるぜ!」


萌えならぬ燃え小説。
毎回、事件発生→潜入捜査→冥途の一里塚→てめぇら許せねぇ(違→メイドの土産→中森明菜 な流れ。決め台詞は「悪党ども、冥土(メイド)が待ってるぜ!」多分に『スケバン刑事』のオマージュ的な側面も。勿論主人公は元ヤンというか元レディース。
時代劇やら戦隊物の、お約束や様式美が好きな人は割りと楽しめるかも。逆にそういうのが駄目な人は全く受け付けない気がする。メイド萌え要素には期待するな。「メイド」って題材は正直全く作品の方向性と関連性は無い気がしたが、実際にやられてみると潜入捜査パートのメイドらしい丁寧なお仕事ぶりと殺陣パートの破天荒ぶりがいい対比になっててなかなか小粋。元レディースのメイドってのもありえない気がするが、ケジメ…というか自分の信じる物の為に一本道を貫く様は意外と違和感無く、むしろ好感が持てた。
ただ、個人的には2話が色々な意味で不快だったので減点材料。ちなみに典型的な醜いオタとメイド喫茶と人身売買の話。「キタ━━━!!!!!」とか乱発。あとがきにも「この本はメイド萌えじゃなく、純粋な燃えを売りにしてるんですよ!」と書いてある(気がする)のだから別にわざわざこんなオタ話をいちいち書かなくてもいいのではないか。この話では被害者も救われていないし色々と嫌な気分が残った。その後3話で持ち直したからいいものの…。
2話はともかく、個人的には熱い展開は好みなのでまずまず楽しめた。メイドってのも思ったほど空回りしていない。が、毎回お話のパターンが同じなので(これは仕方ない気もするが)新鮮味が無くなってくるのも事実。次巻以降で本筋を以下に描くか、もしくはお話の形式を逆に利用して意表をついた書き方をするか辺りが試金石かと思われる。

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早見 裕司 はいむら きよたか
ソフトバンククリエイティブ 2006-04-13