「雪蟷螂」

口づけは一度。
血の味だけがあざやかだった。
忘れるな、と言った。
私は忘れない。名前の代わりに、この口づけを。
こんな想いは生涯で一度きりだとアルテシアは思った。生涯で一度きりのなんだったのか、幼い彼女にはわからず、そして成長を遂げても知ることが出来なかったが。
ようやくわかった。
白い嵐。山脈の風。その中で吹き荒れた、一瞬ではあったけれど。
――生涯で、一度きりの恋だったのだ。


あらすじ

極寒の地・アルスバント山脈で長きにわたって戦争を続けていたフェルビエ族とミルデ族。その争いに終止符を打つため、先代の族長同士の間で一つの約束が成された。10年間の停戦と、その後の族長同士の政略結婚である。
時は流れ、約束の停戦の期間も終わろうとしていた時分。フェルビエ族の族長・アルテシアは、先代の意思を引き継ぎ、婚礼の準備のためにミルデ族の集落へと向かう。だが、ミルデ族の集落では崇拝の対象である先代の遺体の一部が盗まれるという事件が起きていて―


ちょっと物足りなかったかも

ミミズクと夜の王』と『MAMA』の紅玉嬢の1年ぶりの新作。あとがきを見るに、筆が遅れてたってのはわかります。だけど、なんで毎年新人賞にぶつけてくるんだよwww新人可愛そうじゃねーかwww 新人にも容赦しない。それが電撃文庫クオリティ。


期待値が高かったせいか、ちょっと物足りなく感じたのが正直な所でした。
『お話』の作り方自体は相変わらず上手かったのだけど。殺し愛…もとい、愛憎云々みたいな表現しにくいテーマを先代と現代をクロスオーバーさせつつ納得できる終わり方にもって行けてるのは流石の力量。しかも、完全新規で1冊のみで。作風は、前作前々作より更に素に近い感じになってる気がするがテーマには合ってたように思う。どこどこが酷い…ってのは無かったので、物足りないってのは私の主観的な問題なのだ。
戦争やら「想い人を喰らう」やらで血生臭い気もするが、実際は綺麗な話で。戦争や冬山といったモノクロームの素材に、雪蟷螂の諸々の紅が映える。タイトルにもなっている『雪蟷螂』を『雪蟷螂』らしく鮮烈に描き出すって面では間違いなく成功している。だけど、物足りなさを感じたのもそこで…綺麗過ぎるのが気になった。この物語は最初から最後までを通して、一枚の絵画のようで。勿論話の展開に応じて色々問題も出てきますが、予定調和的というか…淀みが無い。『ミミズク』の記憶を消されて幸せに暮らす所とか、『MAMA』での頑なに「二人」の関係に拘り続ける所とか、そういった心に微妙な蘞味を感じる部分が少ないのが個人的には残念でした。


で、読み終わった今、現在の脳内紅玉作品ランキングは MAMA≧ミミズク>蟷螂 な感じ。
なんか3部作だったらしいのですが、前作が好き過ぎると微妙かも。前のが苦手なら逆もまた然り。ベースはやっぱり一緒なので結局、個人の好き好きだとは思いますが。3作目にしてついに「喰べちゃった」から(今までは未遂))こんな感じになったのかーとか考えるとちょっと興味深いかもね?

4048675230雪蟷螂 (電撃文庫)
紅玉 いづき
アスキーメディアワークス 2009-02