「天になき星々の群れ-フリーダの世界」

「君は、眼鏡をかけていると、やさしい顔になるんだね。アリスといると、もう一段、表情がやわらかくなる」
「……バカバカしいわ。私は、あなたが見たとおりの幽霊よ」
「だったら、君は、やさしくなったのさ」
「……やわらかくなったんじゃないわ。ただ、腐ったのよ」
「手厳しい人だ。やさしさは、傷口の膿と同じか」
「もっとひどいわ。……痛いし、見苦しいし、治らないし、それに他人に感染(うつ)るもの」


あらすじ

生まれ故郷の星で繰り広げられる絶え間無い紛争。その過酷な環境で生き抜くために組織の暗殺者となった少女フリーダは、新しい任務の為に辺境の惑星・レジャイナに降り立った。
が、今回の任務は彼女を大いに困惑させた。何しろ現地の連絡員の情報どころか、暗殺対象すら事前に知らされていなかったのである。そんな状況に戸惑う彼女の前に、今日到着するはずの留学生を迎えにきていた少女・アリスが現れる。彼女のルームメイトとして同居し、現地の女子高に学生として潜入するフリーダ。平凡で平和な日常は、今の今まで闇に浸かってきたフリーダの世界を揺さぶる。
そんな中、彼女は現地の連絡員から暗殺対象の情報を得ることに成功、任務を実行する算段を立てる。実行は<<和解記念日>>の喧騒に乗じて。そして、ついに標的に対してフリーダの必殺の銃弾が放たれるが―


銃×眼鏡×少女=正義

円環少女』の長谷敏司のデビュー2作目。近所のブック○フでなんと100円コーナーで見つけてしまったので査収。
表紙が表紙なんで「百合か?百合なのか?」と思ったりもしたけど、それっぽいだけでそんなことはなかったよ。寧ろ中盤からの展開はハードで、『戦略拠点』よりは『円環』に近いと感じた。変態はいませんが。
Phase2からが本番。(見せかけの)平和⇒(割と)極限状況な状況推移の中で、それでも「正しいこと」を以前と変わらず持ち続けて行くことの難しさ。と、それに関わる悲喜交々の「現実」。フリーダが「現実」でアリスが「正しいこと」の体現者。この二人の少女の関係の変化を通して、「現実」と「正しいこと」の折り合いをつけていく様を描く。パッと見の力関係はフリーダ>>>>アリスなのだけど、それでもフリーダはアリスを殺せなかったし、最終的に大勢を決めたのはアリス。けどフリーダがいなければアリスは生きてはいなかったし、ただの一人の頑固な女子高生と言えばそれまでだったりで。どっちが答えということもなく、どちらも大切で答えが無い問題を納得がいく形で二人の少女の問題として昇華してたのはお見事というしか。…この辺りの二律背反の鬩ぎあいっぽいのがgdgd状況な仁に被ってるような気もしたりしなかったり。
で、テーマというか描きたい物が上手く描けているだけに逆に気になったのが、ストーリー展開。二人の問題はいいのだけど、大局に関わる部分で。民衆側が決起する場面と、「フリーダさんのお好きなように」な場面なんだが…どっちも都合が良すぎるだろう?前者、民衆の変わり身早すぎ。おいィ?後者、最初っから味方として送りこまれたっぽいけど、理由が無いと都合が良すぎてなんだかなー…と。他の部分が良かっただけにお話が大きく動く場面に時々粗を感じた。
テーマは上手く描けてるのに、ストーリー展開が微妙に雑というアンバランスな作品。面白いというよりは、上手い、興味深いといった感じ。1作目とは作風だいぶ違うし過渡期だなーと思えなくもない。続編(海でキャッキャウフフらしいよ!)が出ればまた話は変わってくると思うのだけど…こんだけ時間経ってるんだから出ないかなw
4044267022天になき星々の群れ―フリーダの世界 (角川文庫―角川スニーカー文庫)
長谷 敏司
角川書店 2002-11