「Ⅸ(ノウェム)」

罪炎はふところからなにかを取り出し、軽く放ってきた。燕児が受け取ったそれは、銀のかんざしだ。高価なものらしく、紅玉が埋め込まれ、凝った細工が施されている。罪炎の真意を測りかねて、燕児は怪訝な顔をした。
光る目をうかがいながら、そろりと持ち上げ、髪に差す。
「はッ、どうだ、似合うか」
わざとらしくしなを作り、せいぜい嘲笑的な響きを込めて言ったつもりだったが、罪炎は動じた風もなく、「わからん」と言った。
「だが、それでのどを突いてもよいし、心臓を突いてもよい」
「お前の心臓を狙うかもしれんぞ」
「そのときは斬る」

台詞は結構微妙


過去にバイオハザードに携わっていた作者が突然出した武侠小説
と書くと怪しげですねw2005年下半期2chライトノベル板大賞の『ある日、爆弾がおちてきて』。クセのある原作(しかもエロゲ)のノベライズなのにきちんと面白い『斬魔大聖デモンベイン4〜』(角川スニーカー文庫)の作者古橋秀之の短編(?)。古代中国に似た世界を舞台に各々超人的な能力を持つ登場人物が武を競い合うアクション物、ライトノベル風味、です。ボーイミーツガール的要素有り。


私がこの作者を知ったのは『ある日、爆弾がおちてきて』からだったりするのですが、それが壷に嵌り著書をいくつか読んだ後「地味だが地力のある作家さん」という印象を持つに至った次第。その後ある大型書店にて電撃文庫の棚を眺めて、見覚えのある著者名と記憶に無いタイトルに気を惹かれて購入。
ノベライズ、短編、長編毎に作風を微妙に変えてくる(根幹は同じ気もするが)力量は今回も健在といったところ。今回は武侠小説のアクション要素主体ということで、切れのある文体、京劇の舞台のようなテンポ良い台詞回しが特徴。それっぽい漢字の固有名詞溢れる秘技の名前や内容も疾走感あふれる殺陣に一役かってます。アクション要素の描写に関しては当初の目論見どうり成功しているんじゃないでしょうか。難しい事を考えずに流れに乗って読んでいけます。ただ、この流れの良さが別の所では難点に。通常ライトノベルでも何でも読み物を読むということはストーリーを楽しむということに他ならないとは思うのです。が、このお話の場合、物語の流れが速いのと、殺陣に重きをおいているので全体としてのストーリーの流れが把握しにくいと感じられました。と、いうかこれは伏線を張るだけ張っておいて唐突に終わった影響もあるかもしれませんが。続編があればまた印象は変わってくるかもしれません。ただ、戯曲としてならこういう終わり方もありなのかなぁと思えたりも。

4840231826ある日、爆弾がおちてきて
古橋 秀之 緋賀 ゆかり
メディアワークス 2005-10

表紙はこんなですがいいお話です