「黄色い花の紅」

「やっぱね、銃は屈強な男が持つよりかわいい女の子が持つもんだよ。うん、絶対。で、何撃つ?初めてはやっぱリボルバーだろ。口径はいくつがいいかな」
「普通に38口径のスペシャルでいいでしょう」
「紅花ちゃんの体格で考えると22口径の方が良くないか」
「あんなんじゃ撃ったかどうかなんてわからなくないですか?下手に反動の少ない22口径を撃たせて銃なんてこんなものか、なんて思われたらいずれ危ないことになりかねない」
「あ、んじゃコレでいこう。S&Wエアーライト。22口径、八連発ダブルアクション。やたらと軽いから反動だけはデカイ」
「いやいや、星さん。だったら素直に38口径でいいじゃないですか。M64とかは?」
「M64はちょっとブサイクだって。やっぱ女の子にはカッコイイ銃の方がいいだろ」
二人はあれやこれやと、ずっとよくわからない議論を続けていたが、結局結論が出なかったようで二人同時にため息を吐いた後、好きなのを選べと言った。
「やっぱ銃は自分の好みが一番だよな」
「ですよね」


第5回スーパーダッシュ文庫新人賞『大賞』受賞作。自衛手段として銃の所持が認められた日本。工藤商会の白石奈美恵は府津羅組の依頼を受け、組長の令嬢・紅花を救助に向かう。そこで遭遇したのは、異様な仮面をつけた大男だった。壮絶な闘争が続く中、渦中にありながらただ守られるだけの紅花は、次第に自らも「力」を欲するようになる…。銃を手にした紅花の未来に待つものは。


銃と百合。
読み終えて印象に残ったものはこの二つ。前者はこのお話を語る上で良くも悪くも外せぬ物。好きこそ物の上手なれ(実際に述べられた事が現実に即しているかは置いておいて)銃関連の描写は本当に水を得た魚のように生き生きと描かれています。アクションシーンでの描写もいちいち細かいのですが、良かったのは紅花が初めて銃を手に取り実際に撃ってみる場面と、愛銃であるブローニング ハイパワー プラクティカルモデルに辿りつくまでの一連のやり取り。初めて銃を手にした時の圧倒的な力を前にしての恐怖、それを自分の物として従えていく高揚感、爽快感。ただの実用的な道具という意味だけではなく、自己の理想、或いは自分自身の表現としての各人の愛銃に対する思い。それが、ただ人の言うままに流されて生きてきた紅花の変わろうとする思い、決意と重なっていい味を出しています。この点は素晴らしい。作者は本当に銃が好きなのだなぁ、と。願わくば薀蓄を語るより思いを吐露してくれることを望む。百合は…逆に無くてもいいはずなのに存在するから気になるような。白石×紅花は母への憧れとかそういう面もあるので微妙な気もするしストーリー的にも必要なだとは思うが、あづみ×白石とかあづみ×紅花は言い逃れできないでしょー。押絵の入るタイミングも結構確信犯かと。
ストーリーはテンポも良いし悪くない。1部と2部で異なる視点を使った演出もなかなか上手い。が、残念な所としては、銃の薀蓄に文を割きすぎたのかストーリーを進める上で説明不足で実感が沸かない部分があることがあった。専属護衛の思いとか、母の話とか父親の態度の理由についてとかその辺り。1部白石視点、2部紅花視点では入るはずの無い話とはいえ、特に後者はクライマックスに関わってくるので複線的な物が欲しかったかな。文章はくだけ過ぎた感もなく、特に読み辛いということも無いので良いバランスだと思う。
まずまず楽しめたので、今後を占う意味でも次回作『バニラ A sweet partner』に期待。銃と百合ってのは間違ってなかった。次は更に趣味に走ってそうですよ。

4086303167黄色い花の紅
アサウラ
集英社 2006-09