「ギャルゲヱの世界よ、ようこそ!」

「……理恵。お前、なんか、変わったな」
「当たり前だよ。女の子だって、変わっていくんだから」
「理恵。俺はまだ、お前の主人公か?」
もちろん!
「でも、ここから動けないようだと、脇役になっちゃうかもよ?」


あらすじ

『あなたの世界を変えてみませんか?』

ある日突然届いた胡散臭いメール。平凡な日常に飽き飽きしていた都筑武紀は半分ネタと疑いつつも、メールの説明に従って細かい世界設定を進めていった。だが、実はそのメールに書かれていたことは本当のことで、かくしてここに彼の望む世界改変が達成される。その題材は彼が愛したギャルゲー『エターナル イノセンス』。武紀はフラグを立てないと死んでしまうメインヒロイン・神楽ルートを進めることに専念しようとする。が、現実とゲームの設定がごっちゃになっているせいか元のゲームではあり得ない展開が起こり始めていて―


合法ロリもいるよ

第10回えんため大賞「優秀賞」の一応新人さん。元はゲーム制作の方で働いてた方らしく、『ときメモGirl's Side』やらPS2ハルヒでプランナー中心に関わってたみたい。


タイトルどおりに『ギャルゲー』のメタ小説。『エロゲ』ってのはこの界隈でもぼちぼち話題になることはあっても、純粋な『ギャルゲー』ってのは最近は色々落ち目だと思うんだ。まぁ『エロゲヱの世界よ、ようこそ!』なんて漢らしいタイトルを初作品に付けるのもどうかと思うし、ガチエロゲな内容だと二次元drやらフランスsr…やらになっちゃうし無理な物は無理なんだが。それをこの時分で扱う?ネタ的にもエロゲの方が使い易いのに?とか思っていた瞬間が私にもありました。だが万事解決。今回の題材の『エターナル イノセンス』は元18禁エロゲの追加要素含むコンシューマ移植版。まずここがうめぇw これで色々と可能性が広がるってものですよ。
まぁ、正直最序盤は面白くは無かった。『ギャルゲー』的テンプレートなキャラクター相手に、「シナリオの進行がわかってて」フラグを消化していく話のどこが面白いというのか。この時点では主人公もゲーム自体を愛しているとはいえ、他の人に対する態度が「ゲームのキャラ相手」で虫唾がはしる…まではいかないけど、好きにはなれなかった。
が、中盤以降『ギャルゲー』のシステムが『現実』に存在する上で生じる問題点が露になっていく過程で次第に面白くなってきた気がする。主人公の対応が、これまでの『ゲームキャラ相手』気分からしっかり他者のことを思いやるように変化してきたのがまず一つ。で、それ以上に、前述のゲームと現実の齟齬ってのも含めて『ギャルゲー』的メタ要素の利用に本腰を入れてきたのが良かった。ただ、『ギャルゲー』風味にお話を書くのではなく、『ギャルゲー』の構造自体をお話に持ってきてそれで、起承転結をつけている辺り。なんだかんだ言ってEDはヒロイン別とか、そりゃお話に期限はありますよねーとか、FANDISK商法とか利用して成り立つお話が素敵。特に、これはコンシューマ移植版で「原作はどんなょぅι゛ょでも全員18歳以上です!」を利用した展開は完全に想定外でした。想定外でした。
序盤こそ『表面上の』ギャルゲー風味で微妙な気もしますが、それを踏まえた中盤以降のメタ的展開、伏線の張り方と回収手腕が上手く、見た目と裏腹にシステマチックに面白かったかも。書く上での計画性が感じられました。ゲーム制作のプランナーやってたのとこの辺関連あるかもね。

4757746466ギャルゲヱの世界よ、ようこそ! (ファミ通文庫)
有河 サトル
エンターブレイン 2009-01-30